ブーケ-ランバート-ベールの法則は以下のような法則です。
$$A=abc$$$$Aは吸光度[無次元]\quad,aは吸光係数[{\rm cm^{-1} \ g^{-1} \ L}]\quad, bは光路長[{\rm cm}]\quad, cは質量濃度[{\rm g \ L^{-1}}]$$この式がブーケ-ランバート-ベールの法則ですが、この吸光係数$a$と吸収化学種の分子量との積であるモル吸光係数$ε$を用いて
$$A=εbc$$$$Aは吸光度[無次元]\quad,εはモル吸光係数[{\rm cm^{-1} \ mol^{-1} \ L}]\quad, bは光路長[{\rm cm}]\quad, cはモル濃度[{\rm mol \ L^{-1}}]$$の形で用いられることのほうが多いです。
以下では、各用語を解説しながら、ブーケ-ランバート-ベールの法則を導出していきたいと思います。
まず、18世紀にブーケとランベルトが透過する電磁波エネルギーの割合(透過度$T$)は光路長とともに指数関数的に減少することを発見しました。透過度$T$は透過光の強度$P$を入射光の強度$P_0$で割った、無次元の量です。(例えば透過度$T=0.01$のときは、透過光の強度は入射光$\frac{1}{100}$の強度であることを表します)
$$T=\f{P}{P_0}=10^{-kb}\tag1$$$$Tは透過度[無次元]\, \ Pは透過光の強度\, \ P_0は入射光の強度\,\ kは定数[{\rm cm^{-1}}]\,\ bは光路長[{\rm cm}]\\※PとP_0の単位は、打ち消されるため、考慮する必要はありません。$$この式は、例えば、ある長さを電磁波が通過したときに、透過光の強度が入射光の10%になるとしたら、その2倍の長さを電磁波が通ると、透過光の強度は入射光の強度の1%にまで減少するということを表しています。
ブーケやランベルトから一世紀ほど経った、1852年にベールは透過度$T$は濃度$c$とともに指数関数的に減少することを発見しました。
$$T=\f{P}{P_0}=10^{-k’c}\tag2$$$$Tは透過度[無次元]\, \ Pは透過光の強度\, \ P_0は入射光の強度\,\ k’は定数[{\rm g^{-1} \ L}]\,\ cは濃度[{\rm g \ L^{-1}}]\\※PとP_0の単位は、打ち消されるため、考慮する必要はありません。$$この式は、例えば、ある濃度の溶液を電磁波が通過したときに、透過光の強度が入射光の10%になるとしたら、その2倍の濃度の溶液を電磁波が通ると、透過光の強度は入射光の強度の1%にまで減少するということを表しています。
そして、$(1)$式と$(2)$式を組み合わせます。(この操作は数学的なものではないです)
$$T=\f{P}{P_0}=10^{-abc}\tag3$$$$Tは透過度[無次元]\, \ Pは透過光の強度\, \ P_0は入射光の強度\,\\ aはkとk’を組み合わせた定数[{\rm cm^{-1} \ g^{-1} \ L}]\,\ bは光路長[{\rm cm}]\,\ cは濃度[{\rm g \ L^{-1}}]\\$$$(3)$式の両辺に対数をとります。$$\log{T}=\log{\f{P}{P_0}}=-abc\tag4$$ここで、$(4)$式の右辺の「-」を取り除くために、新しい用語、吸光度$A=-\log{T}$を定義すると、
\begin{eqnarray}
-\log{T}&=&abc(\because (4)式の両辺に-1を掛けた)\\
A&=&abc
\end{eqnarray}
が成り立ちます。
これが最初に紹介したブーケ-ランバート-ベールの式です。
$A$の「吸光度」という名前は、吸光度の定義式$A=-\log{T}$を変形した式$T=10^{-A}$から分かるように、$A$が減少すると透過度$T$が増加し、$A$が増加すると透過度$T$が減少することから、「透過度の反対」という意味でつけられています。
ブーケ-ランバート-ベールの法則は吸光分子か光の進行方向で重なり合って、片方の吸光分子にしか光が当たらないという状況では成り立ちません。
このようなことが起こるのは、濃度が高い場合です。そのため、通常吸光度は0.3程度を上限にします。(つまり、希薄溶液にしないといけない。)
ブーケ-ランバート-ベールの説明は以上で終わりですが、微分積分を用いたブーケ-ランバート-ベールの法則の説明を以下に記述します。(いろいろな説明方法がありますので、気に入った方法で理解することをお勧めします。)
微分積分を用いたブーケ-ランバート-ベールの説明
まず、微小距離$\d x$進む間に光が透過する体積($S\d x$)中に含まれる溶質試料分子数は以下の通りです。
$$N_AcS\d x $N_A$はアボガドロ数、$c$は濃度、$S$は断面積。
ここで、各溶質分子が独立に光を吸収し、光を吸収する的の大きさ(専門的な言葉では吸収断面積:分子一個あたりの光の吸収断面積を$σ$とする。)
すると、以下の図の体積$S\d x$中に含まれる分子の吸収断面積の総和は以下の通りです。
$$σN_AcS\d x\tag{1} 光が微小距離$\d x$進む間に溶質に吸収される単位面積当たりの割合は$(1)$式をSで割って、
$$σN_Ac\d x 微小距離$\d x$進む間の光強度$I$の、単位面積当たりの減衰量$-\d I$は入ってくる光の強度と、単位面積当たりの吸収断面積に比例するので、
$$\b
-\d I&=&aIσN_Ac\d x \\
-\f{\d I}{I}&=&aσN_Ac \d x\\
&&aは比例係数 \\
&&これを積分すると \\
-\int^I_{I_0}\f{\d I}{I}&=&aσN_Ac\int^{l}_0\d x \\
-\ln\s{\f{I}{I_0}}&=&aσN_Acl \\
-\ln\s{\f{I}{I_0}}&=&εcl \\
&&(aN_AσN_A=εとした)\\
A&=&εcl \\
&&(A=-\ln\s{\f{I}{I_0}}とした)
\e$$ よって、ブーケ-ランバート-ベールの法則を求めることができた。
ブーケ-ランバート-ベールの見かけ上のズレ
(以下、ベールの法則と略記)
ベールの法則は単一の化学種に対して、単色光の吸光度があまり高濃度ではない濃度に比例するという法則です。
これらの条件が満たされていない場合はベールの法則からのズレが生じます。
会合や解離などの平衡が存在する系では、存在する化学種の存在比が濃度によって変化するため、ベールの法則からずれます。
例えば、弱酸の色素を例にあげると、測定波長でHAに吸収があり、$\rm A^-$には吸収がないとします。濃度が高くなると解離度が小さくなるから、HAの分率が大きくなり、低濃度のときから予想されるよりも吸収が大きくなります。
照射光が完全に単色光ではないときもベールの法則から外れます。照射光が$λ$と$λ’$の波長を含むとすると、モル吸光係数は波長に依存するから、$λ$と$λ’$の波長の吸収量が異なる。入射光の強度を$I_0$,透過光の強度を$I$、モル吸光係数をそれぞれ$ε$、$ε’$とすると、
$$I=I_010^{εcl}\\I’=I’_010^{ε’cl} $$で、2つの波長を含んだ光についての吸光度$A$は
$$\b
A&=&\log{\f{I_0+I_0′}{I+I’}} \\
&=& \log{\f{I_0+I_0′}{I_010^{εcl}+I’_010^{ε’cl}}}\\
\e $$となり、それぞれの波長においてはベールの法則が成り立っても、合わせた光については$A$は濃度にも試料層の厚さにも比例しなくなります。(ただし、$ε$は波長によってゆっくり変わるの実際には問題のないことが多いです。しかしながら、分光器ではなく、フィルターを用いる簡易型の光度計では、この問題が起こることがあります)
参考)
無機・分析化学演習 p230