$\rm ^{13}C-NMR$では通常、水素核のスピンによる分裂の影響を消去するため、水素核スピンとのスピン-スピン結合をデカップリングした状態で測定を行う。このため、得られるスペクトルは単純に独立な炭素の数だけのピークになる。しかし、ピークの面積はもはや、炭素の数には比例しない。これは水素核のスピンの向きがデカップリング操作により高速に変化する際に隣接する$\rm ^{13}C$核スピンの緩和を促進して、$\rm ^{13}C-NMR$のピーク強度が変化するためである。緩和の促進によって多くの場合、基底状態にある核が増えるためピーク強度は大きくなるので、緩和の影響がないsで示したピークは相対的に小さくなる。隣接する核スピンのデカップル操作のさいに、ピーク強度が変化する効果を核オーバーハウザー効果(NOE)という。NOEの大きさは核間距離の$-6$乗に比例するため、概ね核間距離が0.5nm以下で顕著に現れるため、NOEを用いて空間的に隣接する核を特定することができる。なお、核オーバーハウザー効果はスピン-スピン結合とは作用の機構がことなる。核オーバーハウザーは緩和速度を変化させるため、空間的に隣接していることが絶対条件である。一方、スピン-スピン結合は、結合電子がスピンの磁気的な影響を媒介する。このため、スピン-スピン結合が顕著に見られない酵素と基質のように分子間力により接近している場合にも核オーバーハウザー効果は観測される。酵素と基質の結合様式、タンパク質の高次構造の解析などに核オーバーハウザー効果は広く用いられている。