Friedel-Crafts反応

Friedel-Crafts反応(フリーデルクラフツ反応)とは、芳香族求電子置換反応の内、アルキル化とアシル化のことを指します。

Friedel-Craftsアルキル化

芳香族は求核性の低い化学種ですが、それにカルボカチオンという反応性の高い炭素の求核剤を反応させることで、アルキル基をベンゼン環に導入することができます。この反応は$\rm S_N1$反応で起こり、典型的な$\rm S_N1$求電子剤として、酸性条件下でt-ブチルアルコールから生成するt-ブチルアルコールなどが用いられます。

Friedel-Craftsアルキル化はあまり用いられません。
なぜなら

○多置換体が生成してしまうこと
○第一級アルキルベンゼンを合成するのが難しい

という二つの問題点があるからです。
さらに、アシル化の後に、それを還元することで、アルキルベンゼンをこの二つの問題点を克服して生成させることができることもアルキル化が使われない原因の一つです。

アルキル化の場合、$\rm R^+$は電子供与基(活性化基)であるため、ベンゼンに置換すると、生成物である$\rm Ph-R$は更に$\rm R^+$と反応しやすくなってしまいます。そのため、多置換体が生成してしまいます。
例えば、

これを防ぐために、大過剰のベンゼンを用いる必要がある上に、収率も最高でも50%ほどと低収率です。

また、第一級アルキルベンゼンを合成するのが難しいという点もアルキル化の欠点の一つです。

例えば、塩化プロピルでFriedel-Craftsアルキル化を行おうとすると、一級アルキルが付加したものは生成せずに、二級アルキルの置換体が主に生成する上、さらに、他の多置換体副生成物ができてしまいます。

なぜなら、第一級アルキル置換体が生成する$\rm S_N2$反応と競争的に、$\rm S_N1$反応も起こるからです。$\rm S_N1$反応では、第一級カルボカチオンから安定な第二級カルボカチオンに転移するため、第二級カチオンの置換体が生成します。

Friedel-Craftsアシル化

Friedel-Craftsアシル化では芳香族ケトンが生成します。Friedel-Craftsアルキル化と同様に、$\rm AlCl_3$との反応によりカチオンを生成させます。アシル化では酸塩化物(酸無水物でも良い)と反応してアシリウムイオンというカチオンを生成します。アシリウムイオンは酸素の非共有電子対により安定化しています。


反応例は以下のとおりです。

Friedel-Cfaftsアシル化反応では、Fridel-Craftsアルキル化の欠点である

○多置換体が生成してしまうこと
○第一級アルキルベンゼンを合成するのが難しい

という二つの問題を解決できます。
まず、前者ですについては、アルキル化とは違い、アシル基は不活性化基なので、生成物がより不活性になるため、多置換体が生成しないため、できません。

後者についても、Friedel-Craftsアルキル化ではカルボカチオン転移が起こった一方、Friedel-Cfaftsアシル化によって得られるアシリウムイオンは炭素の空軌道と酸素の非共有電子対の軌道の相互作用によって安定化しているため、転移を起こしません。そのため、ケトンを還元することで容易に第一級アルキルベンゼンを得ることができます。
酸塩化物の代わりに酸無水物を用いてもアシリウムイオン($\rm R-C≡O^+$)を経由して、Friedel-Craftsアシル化が進行します。

また、環状酸無水物を用いれば、ケト酸を合成することもできます。

参考)
奥山 格 「電子の動きで見る有機反応の仕組み」東京化学同人 p55
S.WARREN 「ウォーレン有機化学 上」東京化学同人 第二版 pp489.504~506
Mc Murry 「マクマリー有機化学 第9版」東京化学同人 2017 pp561~569

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