連鎖反応(chain raction)はあるステップで生成した中間体が次のステップで反応性の中間体を作り、次々と進行していく反応です。
様々な気相反応や液相での重合反応、そして核に代表される分裂反応も連鎖反応です。
$\newcommand\H{[{\rm H_2}]}\newcommand\Br{[{\rm Br_2}]}\newcommand\HBr{[{\rm HBr}]}\newcommand\rBr{[{\rm Br・}]}\newcommand\rH{[{\rm H・}]}$
連鎖反応の中間体のことは「連鎖担体(chain carrier)」と呼ばれています。
よくある連鎖担体としては、ラジカルやイオン、核反応では中性子が例に挙げられます。
連鎖反応の段階は4つほどあります。
その段階は①~④まで順に
①開始段階 (例)$\rm Cl\overset{hν \ or Δ }{{→}}2・Cl(塩素ラジカル)$
連鎖担体が生成します。
②
2段階目は成長段階と分岐段階の2種類が考えられます。
・成長段階 (例) $\rm ・CH_3(メチルラジカル)+CH_3CH_3→CH_4+・CH_2CH_3(エチルラジカル)$
・分岐段階 (例)$・O・+H_2O→HO・+HO・$
一個のラジカルから2個のラジカルが生成する反応で、より反応が促進されます。
③遅延段階 (例)$\rm ・H+HBr→H_2+・Br$
連鎖担体が増えた生成物を攻撃し、反応が鈍くなります。上の例では$\rm HBr$が生成物
④
4段階目は停止段階や抑制段階の2種類があります。
・停止段階 (例)$・CH_2CH_3+・CH_2CH_3→CH_2CH_2CH_2CH_3$
連鎖担体同士が反応して、連鎖担体ではなくなるため、これ以上反応が進まなくなります。
・抑制段階(例)$\rm CH_3CH_2・+・R→CH_3CH_2R$
この$\rm ・R$は容器の壁や外部殻のラジカルのことです。(例:$\rm ・NO$など)
連鎖反応の速度式
以下の例を考えます。$$\rm H_2(g)+Br_2(g)→2HBr(g)$$この$\rm HBr$の生成速度はなんと、
$$\b
HBrの生成速度&=&\f{k_{r_1}\H\Br^\frac{3}{2}}{\Br+k_{r_2}\HBr} \\
\e $$という複雑な式になります。
これは連鎖反応だからです。
この式の複雑さは連鎖反応では無い気相反応と比べるとわかりやすいです。
例えば、同じ気相反応である、
$$\rm H_2(g)+I_2(g)→2HI(g) $$では
$$\rm HIの生成速度=k[H_2][I_2] $$となります。これは典型的な気相二次可逆反応です。
話を戻すと、この連鎖反応は様々な実験により、反応機構がわかっています。それを見ていきます。
Step1開始段階
$$\rm Br_2→Br・+・Br \\ \rm Br_2の消滅速度=K_a[Br_2]$$
Step2成長段階
$$\b
\rm Br・+H_2&=&\rm HBr+H・ \\
\rm H・+Br_2&=&\rm HBr+Br・ \\
\e$$ よって、
$$\b
1段階目の反応速度v&=&k_b\rBr\H \\
2段階目の反応速度v&=&k_c\rH\Br \\
\e$$ となります。
Step3 遅延段階
$$\rm H・+HBr→H_2+Br・$$ となり、
$$反応速度v=k_d\rH\HBr$$ Step4停止段階
$$\rm Br・+Br・+M→Br_2+M $$となります。($\rm M$はなんらかの大量にある不活性な分子)
よって、
$$\rm Br_2の生成速度=k_e\rBr^2 $$となります。
この不活性な分子である$\rm M$は再結合エネルギーを除去する働きを持っており、また、$\rm M$は一定とみなしていいので、生成速度の式には現れません。
※これ以外にも
$$\rm H・+H・→H_2\\
H・+Br・→HBr $$という反応が起こっている可能性もありますが、$\rm Br・+Br・→Br_2$という反応に比べてあまり重要ではないことがわかっているため、考慮しません。
さて、解いていきます。
$$\b
\rm HBrの正味の生成速度&=&k_b\rBr\H+k_c\rH\Br-k_d\rH\HBr\tag{*} \\
\rm H・の正味の生成速度&=& k_b\rBr\H-k_c\rH\Br-k_d\rH\HBr=0(定常状態近似)\\
\rm Br・の正味の生成速度&=&2k_a\Br-k_b\rBr\H+k_c\H\Br+k_d\rH\HBr-2k_e\rBr^2=0(定常状態近似) \\
\e$$ この2つの定常状態近似の式から、
$$\b
\rBr&=&\s{\f{k_a\Br}{k_e}}^{\frac12} \\
\rH&=&\f{k_b\s{\frac{k_a}{k_e}^{\frac12}}\H\Br}{k_c\Br+k_d\HBr} \\
\e $$の関係が導かれます。
これを$(*)$式に代入すると、
$$\b
\rm HBrの正味の生成速度&=&\f{k_d}\s{\frac{k_a}{k_e}^{\frac12}\rH\rBr^{\frac32}}{\Br+\s{\frac{k_d}{k_c}}\HBr} \\
ここで、k_{r_1}&=&2k_b\s{\f{k_a}{k_e}}^{\frac12} \\
k_{r_2}&=&\f{k_d}{k_c}とおくと、最初に書いた \\
HBrの生成速度&=&\f{k_{r_1}\H\Br^\frac{3}{2}}{\Br+k_{r_2}\HBr} \\
&&の式が出てきます。
\e$$
最後に爆発について少し説明します。
最も簡単な爆発といえば、水素爆鳴気です。水素をためた別途ボトルに火を近づけると「ぽんっ」となるのは高校時代に実験を行った人もいるかも知れません。
この水素爆鳴気の反応、反応式上だと、
$$\rm 2H_2+O_2→2H_2O$$ ととてもシンプルです。この反応は600℃以上で爆発的におこります。
しかし、このようなシンプルな反応が起こっているわけではなく、これも連鎖反応です。
Step1開始段階
$$\rm H_2+・(O_2)・→・OH+・OH$$ Step2成長段階・分岐段階
$$\rm H_2+・OH→・H+H_2O(成長段階)\\
・(O_2)・+・H→・O・+・OH(分岐段階)\\
・O・+H_2→・OH+・H(分岐段階)$$ Step3は水素爆鳴気ではありません。
Step4停止段階
$$・H+・(O_2)・+M→・HO_2+M(※三体反応)\\
・H,・OH,・HO_2+(容器の壁)→安定分子$$
このような素反応の組み合わせによって水素爆鳴気が起こっていると言われています。
これでも連鎖反応の中ではとても単純なもので、炭化水素の酸化反応などでは、100種類ほどの素反応の組み合わせがある連鎖反応もあります。
さて、爆発が起こるメカニズムは(核を除く)は二種類あって、熱爆発と分岐爆発があります。
熱爆発は
爆発によって、反応系の温度が加速度的に上昇することで起こるというものです。
分岐爆発は
連鎖担体の指数関数的な増加によって起こるというものです。
核分裂についても少しだけ紹介すると、
$$\rm ^{235}U+^1 n→核分裂片+2.52 ^1n+180MeV\\
^{239}P+^1n→核分裂片+2.95^1n+200MeV$$ 核反応では、ウランの場合でもプルトニウムの場合でも、ウランの場合では1回の反応で平均2.35個の中性子が、プルトニウムでは2.95個の中性子が発生し、この連鎖担体である中性子が増えるため、連鎖反応が起こります。