並進分配関数

3次元の箱の中の並進運動の分配関数$q$を考えます。

並進の分配関数は次のように表すことができます。
$$q=\f{V}{Λ^3}\\
Vは箱の体積\\
Λは熱的波長
熱的波長は「波長」なだけあって長さの単位なので、$q$は無次元の値となります。

並進運動を行う箱の中の分子のエネルギーを考えていきます。

並進エネルギー
$$ε_{n_1n_2n_3}=ε^{(X)}_{n_1}+ε^{(Y)}_{n_2}+ε^{(Z)}_{n_3}
分配関数は
$$\b
q&=&\sum_{all \ n}e^{-βε_{n_1n_2n_3}} \\
&=& \sum_{all \ n}e^{ε^{(X)}_{n_1}+ε^{(Y)}_{n_2}+ε^{(Z)}_{n_3}}\\
&=&\sum_{all \ n} e^{ε^{(X)}_{n_1}}e^{ε^{(Y)}_{n_2}}e^{ε^{(Z)}_{n_3}}\\
&=&(\sum_{n_1}e^{ε^{(X)}_{n_1}})(\sum_{n_2}e^{ε^{(Y)}_{n_2}})(\sum_{n_3}e^{ε^{(Z)}_{n_3}}) \\
&=&q_Xq_Yq_Z \\
\e
狭い空間の中で移動する粒子の運動エネルギーについて見ていきます。

長さ$X$の一次元の箱の中の分子のエネルギー準位は(一次元の箱型ポテンシャル)
$$\b
E&=&\f{n^2h^2}{8mX^2} \  ,  \  n=1,2,3… \\
&=& n^2ε,ε=\f{h^2}{8mX^2}\\
\e
$$ε_n=(n^2-1)ε(n=1に対する相対的な準位に) $$

そして、$q_λ$は
$$\b
q_λ&=&\sum_{n=1}e^{-(n^2-1)βε} \\
&≒&\int^{λ}_{1}e^{-(n^2-1)βε}\d n\\
&&(計算できるようにするために\\
&&級数和を連続的な積分和として近似しました) \\
&≈&\int^{∞}_{1}e^{-n^2βε}\d n \\
&=& \int^{∞}_{1}e^{x^2}\f{x}{nβε}\d x(n^2βε=x^2とした) \\
&=& \f{1}{\sqrt{βε}} \int^{∞}_{1}e^{x^2}\d x\\
&=&\f{1}{\sqrt{βε}}\f{\sqrt{π}}{2} \\
q_X&=&(\f{2πm}{h^2β})^{\frac{1}{2} }X\\
&&これで、q_Y,q_Zについても同様なので \\
q&=&q_Xq_Yq_Z \\
&=& (\f{2πm}{h^2β})^{\frac{3}{2} }XYZ\\
&=&\f{V}{Λ^3}\\
Λ&=&(\f{h^2β}{2πm})^{\frac{1}{2}} \\
&=& \f{h}{(2πmkT)^{\frac{1}{2}}}\\
\e
これより、熱的波長というものは質量に依存することが分かります。(熱的波長自体の説明はしません。)

例題として、計算してみましょう
例)$\rm H_2$分子の並進分配関数を求めましょう。
ただし、体積$V=100{[\rm cm^3]}$,$T=25℃$,
$m=2.016u=2.016×1.667×10^{-27}=3.349×10^{-27}[{\rm kg}]$とする。

$$\b
q&=& \f{V}{Λ}\\
Λ&=&\f{h}{(2πmkT)^{\frac{1}{2}}} \\
&=&\f{6.636×10^{34}}{(2π・3.349×10^{-27}・1.38×10^{-23}×298)^{\frac{1}{2}}} \\
&=&7.12×10^{-11}[{\rm m}] \\
&=&7.12[{\rm pm}] \\
\e

よって。
$$\b
q&=&\f{100×10^{-6}}{(7.12×10^{-11})^3} \\
&=& 2.77×10^{26}\\
\e
分配関数はある温度における系が取りうる量子状態の数なので、並進運動の量子状態はこのような無数の状態がとれることがわかります。

内部エネルギー

内部エネルギーと分配関数との関係を示していきたいと思います。
かなり数学的な話に成ますが、之をやらないと前に進めません。

全エネルギーは$E=\sum_in_iε_i$というふうに表すことができます。
占有数は。。。
$n_i$はどうなっているのでしょう?
これで出てくるのがボルツマン分布です。
その式をみると、
$$n_i=\f{e^{-βε}}{\sum_i e^{-βε_i}}N=\f{e^{-βε}}{q}N
これにおいえて、分母はボルツマン分布です。よって、これをつかって$E$書き換えていきます。
$$\b
E&=& \f{N}{q}\sum_iε_ie^{-βε_i}\\
\e
ここで、$ε_ie^{-βε}=-\df{}{β}e^{-βε_i}$と変形させるこおtができるので、
$$\b
E&=& \f{N}{q}\sum_iε_ie^{-βε_i}\\
&=&\f{N}{q}\sum_i -\df{}{β}e^{-βε_i}\\
&=& -\f{N}{q}\df{}{β}\sum_ie^{-βε_i}\\
&=& -\f{N}{q}\df{q}{β}(4.3)\\
\e
よって、分配関数$q$さえ分かれば、全エネルギーが求められることが分かります。

ここで、いよいよ内部エネルギーを求めていきたいと思います。

ある温度における内部エネルギー$U$は
$$U=U(0)+E
で表されます。
$U(0)$というのは$T=0K$における内部エネルギーのことです。これはたんなる基準となるもので、その中身を議論することはあまりありません。この式に上でもとめた全エネルギー$E$を代入していきます。
$$\b
U&=&U(0)-\f{N}{q}\ddp{q}{β}_V \\
&&(体積を一定としました。) \\
&=& U(0)-N\ddp{\ln q}{β}_V(4.4)\\
&&この変形はよくある変形です。 \\
&&(\f{\d }{x}=\ln x)の関係を用いています。 (4.5)\\
\e

これをつかって実際に理想(完全)気体の内部エネルギーを求めてみましょう。

これは代入するだけで計算できます。
今考えるのは並進の分配関数です。この理想気体は軽い希ガスによく当てはまります。(回転運動がない。分子内振動もない。)つまり、理想気体は並進運動だけ考えるとよいです。
並進の分配関数は$q=\f{V}{Λ}$、$Λ=h(\f{β}{2πm})^{\frac{1}{2}}$でした。
$$\b
\ddp{q}{β}_V&=&V(-\f{3}{Λ^4})h・\f{1}{2}・\f{β^{\frac{1}{2}}}{(2πm)^{\frac12}} \\
&=& -\f32\f{V}{βΛ^3}\\
&=& -\f32\f{q}{β}\\
\e

よって、内部エネルギーは
$$\b
U&=&U(0)-\f{N}{q}(-\f32\f{q}{β}) \\
&=& U(0)+\f32\\f Nβ\
\e

それに対して、古典的な熱力学では
$$U=U(0)+\f32nRT(4.6)
で与えられていました。これは均分定理から得られています。

よって、見比べると、
$$\b
\f 32f N β\&=&\f32nRT \\
β&=&\f{N}{nRT} \\
&=&\f{nN_{\rm A}}{nkN_{\rm A}T} \\
&=& \f{1}{kT}\\
\e
($n$は物質量,Rは気体定数,N_{\rm A}はアボガドロ定数,
kはボルツマン定数)
※気体定数とボルツマン定数の関係は$R=kN_{\rm A}$

よって、$β=\f1{kT}$が導かれました。

次に考えたいのは、ボルツマンの墓碑にかいてあるという式、
まさにボルツマンの式です。
これは
$$S=k\ln{W}
という式です。$Wは重みでした。Sはエントロピーです。$
エントロピーは
$$dS=\f{δQ}{T}(5.9)
で与えられる微分可能な状態量でした。

エントロピー$S$と$W$の関係を表す式がボルツマンの式です。

$W$というのは最確配置の重みのことです。
$$W=\f{N!}{n_1!n_2!…}
温度$T→0$になると、すべての分子が基底状態になります。これになると$W=1$となります。すなわち、$\ln W→0$つまり$S→0$となります。

このボルツマンの式の導出をする前に、少し復習します。
古典熱力学の話です。
熱力学の第3法則というものがあります。

これはネルンストがつくったものです。
「すべての完全結晶のエントロピーはT→0で同じ値に接近する」
第ゼロ法則は温度の存在
第一法則はエネルギー保存則でした。
第二法則はエントロピーSの存在をしめす。
第3法則はT→0に近づいたときのSの値。

さて、ボルツマンの式を導出します。

内部エネルギーを早速使います。
内部エネルギー
$$\b
U&=&U(0)+\sum_in_iε_i \\
\e
の変化を考えます。
$$\b
dU&=&dU(0)+\sum_in_i\d ε_i+\sum_iε_i\d n_i \\
\e
です。V=一定で加熱した場合、
体積一定だと底の中で許されるエネルギー準位は不変で,かつ定数である$U(0)$について$\d U(0)=0$であるから。

熱力学より、

$$\d U=\d q_{\rm rev}=T\d S
$$\b
\d S&=&\f{\d U}{T} \\
&=& kβ\sum_iε_i\d n_i\\
\e
最確配置(Wが最大になる条件)(W=0になる条件、\ln W=0)
における変化のみを考えると、

ボルツマン分布を求める時の流れに準拠しますが、
$$\b
\ddp{\ln N}{n_i}+α-βε_i&=&0 \\
&&(ラグランジュの未定乗数法を用いている) \\
ε_i&=&\f1β(\ddp{\ln W}{n_i}+α) \\
\e
よって、
$$\b
\d S&=&k\sum_i\ddp{\ln W}{n_i}\d n_i+kα\sum_i \d n_i \\
&=&k\sum_i\ddp{\ln W}{n_i}\d n_i \\
&&(\because \sum_i\d n_i=0、N=const) \\
&=&k\d \ln W \\
S&=&k\ln W(積分しました) \\
\e

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