ファンデームテルの式(van Deemterの式)


クロマトグラフィーの性能の指標である段高$H$はファン・デームテルの式で理解することができます。ファンディームターの式は以下の様な式です。
$$H=A+\f{B}{\overline{u}}+C \ \overline{u}$$\begin{eqnarray}H&は&段高\ ,\\ A&は&渦拡散項 \ , \\ B&は&分子拡散項\ , \\ C&は&相間物質移動項 \ , \\ \overline{u}&は&移動相の平均線流速[{\rm cm \ s^{-1}}]\end{eqnarray}

以下、平均線流速$\overline{u}$、第1項、第2項、第3項についてそれぞれ説明を記述します。


まず、なぜ平均線流速$\overline{u}$を用いているかというと、GC(ガスクロマトグラフィー)の場合、移動相の線速度はカラムの位置によって異なるからです。入り口付近では遅く、出口に向かうほど速くなります。一方、LC(液体クロマトグラフィー)においてはそのようなカラムの位置による線速度の違いは現れません。そのため、LCに限り、線速度は一定、つまり平均を取らなくてもよいことになります。$\overline{u}=u$


第1項の定数$A$は「渦拡散」といいます。渦拡散は、カラム内で移動相が通過する経路に差があること(軸方向の線速度の不均一性)によって生じる拡散のことを指します。
上図のように、移動相の様々な異なる流路を取れることにより、拡散が起こり、これが大きければ大きいほど段高は大きくなり、つまりクロマトグラフィーの性能が低下します。(段高$H$が小さいほど性能がいいクロマトグラフィーといえます)
カラムの粒子径が小さくなるほど渦拡散$A$は小さくなります。


第2項の定数$B$は「分子拡散」を表しています。目的分子がクロマトグラフィーの中で分離されるということは、つまり、その分子濃度を大きくするということです。そして、あらゆる分子は濃度がより低いほうへ拡散する傾向があります。この分子拡散は時間が経てば経つほど大きくなっていきます。そのため、流速$\overline{u}$を大きくすればするほど、つまり、分析時間自体を短くすればするほど、この分子拡散$B$の影響は小さくなります。$\fp{B}{\overline{u}}$
ただ、分子拡散$B$は分子の種類や形態によっても大きく異なります。例えば、気体の分子拡散は液体の分子拡散よりはるかに大きくなります。(気体は液体より分散しやすい)
そのため、この分子拡散$B$はGC(ガスクロマトグラフィー)でより影響を持ちます。
逆に、LC(液体クロマトグラフィー)ではしばしばこの分子拡散$B$は無視できます。(無視できるほど小さい。)


第3項の定数$C$は「相間物質移動」を表しています。これは溶質が移動相と固定相を移動し、平衡が達成するまで、有限の時間がかかることに起因します。(仮に平衡が瞬時に達成されるのであれば$C$は0になります)この$C$は流速$\overline{u}$が大きくなればなるほど大きくなります。($C \ \overline{u}$)(仮に流速を0にして分析に無限の時間をかければ、完全に平衡が達成されるので$C$は0になります)


最適流速

ファン・デームテル式$$H=A+\underline{\f{B}{\overline{u}}+C \ \overline{u}}$$に置いて、段高$H$が最小となる流速のことを最適流速$\overline{u}_{{\rm opt}}$(添字は「最適」のOptimumの頭文字です)といいます。渦拡散$A$は流速にかかわらず一定なため、$\underline{\qquad}$部分が最小と成るような流速$\overline{u}$が最適流速$\overline{u}_{{\rm opt}}$となります。

$\underline{\qquad}$部分おいて、$B>0、C>0、\overline{u}>0$という条件が揃っているので、
相加・相乗平均の関係が使えます。
\begin{eqnarray}
\fp{B}{\overline{u}}+C \ \overline{u}&≧&2\sqrt{\fp{B}{\overline{u}}・C\overline{u}}\\
\fp{B}{\overline{u}}+C \ \overline{u}&≧&2\sqrt{BC}\tag1
\end{eqnarray} よって、$\underline{\qquad}$部分の最小値は$2\sqrt{BC}$で、つまり、
最小段高$H_{\rm min}$は$H_{\rm min}=A+2\sqrt{BC}$となります。
また、$(1)$式の等号がなりたつのは$\f{B}{\overline{u}_{{\rm opt}}}=C \ \overline{u}_{{\rm opt}}$のときなので、最適流速$\overline{u}_{{\rm opt}}$は$\overline{u}_{{\rm opt}}=\sqrt{\f{B}{C}}$となります。

実際の分析ではこの最適流速$\overline{u}_{{\rm opt}}$よりも速い流速で分析がなされます。なぜなら、下のグラフを見て分かる通り、多少流速を早くしてもあまり段高は変わらないからです。
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