見かけ電位と参照電極

何かの電位を図るときは、片方の電極は一定の電位でなくてはなりません。

そのような電極は参照電極(基準電極・比較電極ともいわれる)と言われ、その対極にあたるものは作用電極といいます。

代表的な参照電極に、塩化銀電極があります。この塩化銀電極は塩化物イオンの濃度を一定にすれば、電位が一定になります。以下にその理由をかきます。

銀イオンー銀$\rm Ag^+ / Ag$の電位に対する塩化物イオン$\rm Cl^-$の影響を考えます。まず、塩化物イオンが存在しない場合の半反応とネルンストの式はそれぞれ以下の通りです。
$${\rm Ag^+ + e^-⇄Ag}\\
E=E\stst_{\rm Ag^+/Ag}+\f{RT}{F}\ln{[{\rm Ag^+}]}-★ $$すなわち、電位$E$は銀イオンの濃度${\rm [Ag^+]}$に依存して変化します。
次は、塩化物イオンが存在する場合を考えます。それも過剰にです。
塩化物イオン$\rm Cl^-$が過剰に存在する場合、は溶液中の銀イオンは沈殿し、次のような沈殿生成平衡になります。
$$\rm Ag^+ + Cl^- ⇄ AgCl$$このとき、銀イオンの濃度は溶解度積$K_{\rm sp,AgCl}={\rm [Ag^+][Cl^-]}$を用いて、
$${\rm [Ag^+]}=\f{K_{{\rm sp,AgCl}}}{[{\rm Cl^-}]}$$となります。これを上の$★$の式に代入します。すると、
\begin{eqnarray}
E&=&E\stst_{\rm Ag^+/Ag}+\f{RT}{F}\ln{\f{K_{{\rm sp,AgCl}}}{[{\rm Cl^-}]}}\\
&=&\underline{E\stst_{\rm Ag^+/Ag}+\f{RT}{F}\ln{K_{\rm sp,AgCl}}}+\f{RT}{F}\ln{\f{1}{[{\rm Cl^-}]}}
\end{eqnarray}
となります。この下線を引いた部分は定数です。そして、この定数部分は見かけ電位$E\stst’$とよばれます。この記号を用いて書き直すと以下のようになります。
$$E=\underline{E\stst’}+\f{RT}{F}\ln{\f{1}{[{\rm Cl^-}]}}=E\stst’-0.059\log[{\rm Cl^-}]$$上式の見かけ電位以外のところは塩化物イオンの濃度に依存しています。逆に言うと、塩化物イオンの濃度を一定にすれば電位が一定になるということを意味しています。
この電位が変化しない性質が塩化銀電極が参照電極として用いられる理由です。

実際には$\rm Ag,AgCl|3.5mol/dm^3$塩化カリウム水溶液、または$\rm Ag,AgCl|$飽和カリウム水溶液の組み合わせが一般的で、電位はそれぞれ0.205V  ,  0.199Vです。

また、参照電極はカロメル電極もよく用いられます。
カロメル電極の電極反応は以下の通りで、ネルンスト式も塩化銀電極と同じ様なものになります。
$$\b
電極反応&:&\rm Hg_2Cl_2+2e^-⇆2Hg+2Cl^- \\
ネルンスト式&:& E_{\rm Hg_2Cl_2/Hg}=E^{\stst}_{\rm Hg_2Cl_2/Hg}-0.059\log[{\rm Cl^-}]\\
\e$$

【例題】
塩化物イオン$\rm Cl^-$の存在下における$\rm Ag^+/Ag$系の見かけ電位$E\stst’$を25℃で求めよ。
但し、
$E\stst_{\rm Ag^+/Ag}=+0.80$,

$K_{\rm sp , AgCl}=1.78×10^{-10}$
である。

【解答】
25℃における見かけ電位は
\begin{eqnarray}
E\stst’&=&E\stst_{\rm Ag^+/Ag}+0.059\log{K_{\rm sp , AgCl}}\\
&=&+0.80+0.059×\log(1.78×10^{-10})\\
&=&+0.80+0.059×(-9.75)\\
&=&0.22
\end{eqnarray}
よって、見かけ電位は$E\stst’=0.22[{\rm V}]$となる。

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