錯形成の酸性度の影響

アンモニアは水溶液中ではアンモニウムイオンと平衡関係にあります。また、酢酸やアセチルアセトン等の場合、配位可能な種は水素イオンを解離したアニオンです。したがって、このような配位子の場合、錯形成反応は水素イオンと配位子間の反応との競争になります。
簡単のために、M:L=1:1で反応する水素イオンー配位子間の反応は以下の式で表すことができます。(荷電は無視している)
$$\b
\rm H^++L&⇆&\rm HL \tag1\\
\rm HL&⇆&\rm H^++L \\
\rm K_a&=&\f{1}{K’}=\f{\rm [H^+][L]}{\rm [HL]}\\
\e
ここで、反応$(1)$式の平衡定数$K’$の逆数を酸解離定数といいます。次に金属イオンに配位していない配位子の濃度を$\rm ([L]+[HL])=[L]_{free}$とすると、
$$\b
\rm [HL]_{free}&=&\rm [L]\s{1+\f{1+[H^+]}{K_a}} \\
K&=&\rm \f{[ML]\s{1+\frac{1+[H^+]}{K_a}}}{[M][L]_{free}} \\
K_{ap}&=&\f{K}{\frac{1+[H^+]}{K_a}}=\f{[ML]}{[M][L]_{free}} \\
\e
の3式が成り立ちます。水素イオン濃度が高いと、この手の錯体の見かけの生成定数$K_{\rm ap}$が小さくなること、すなわち、酸性が高いと錯体は分解することをいみします。このように、$K_{ap}$は$\rm [H^+]$に依存するが、$K$には依存しないことがわかります。錯形成が水素イオンとの競争であることを利用すると、$\rm pH$滴定によって$K$を求めることができ、古くから利用されています。

参考:基礎錯体工学研究会 「新板 錯体化学」p 81

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