$\newcommand\p{[{\rm P}]}\newcommand\ab{[{\rm AB}]}\newcommand\a{[{\rm A } ]}\newcommand\bb{[{\rm B} ]}\newcommand\no{[{\rm NO} ]}\newcommand\o{[{\rm O_2} ]}\newcommand\nnoo{[{\rm N_2O_2} ]}\newcommand\noo{[{\rm NO_2}]}$
化学反応が次の律速段階で進行するとして、定常状態近似法を用いて反応速度式を記述せよ。
$${\rm A+B} \ \overset{k_1 }{\underset{k_{-1} }{\rightleftharpoons}} \ {\rm AB} \ \overset{k_2 }{{\rightleftharpoons}} \ {\rm B+P} $$
この問題では$r=\df{\p}{t}$をもとめて行きます。
$\rm AB$が中間体なので、定常状態近似が適用できます。
$$\b
\df{\ab}{t}&=&k_1\a\bb-k_{-1}\ab-k_2\ab=0 \\
&&(\because 定常状態近似) \\
\ab&=&\f{k_1\a\bb}{k_{-1}+k_2} \\
r&=&\df{\p}{t}=k_2\ab=\f{k_1k_2\a\bb}{k_{-1}+k_2} \\
\e$$
となり、$r$をもとめることができました。
さて、もっと複雑な式を見ていきます。
定常状態近似法の適用例
例えば、NO(一酸化窒素)の気相酸化反応を取り上げたいと思います。
これは自動車などのエンジンから発生したNOが酸性雨の原因の1つである$\rm NO_2$が発生する過程の反応式です。
$$2{\rm NO(g)}+{\rm O_2(g)}\overset{ k_r}{{\rightleftharpoons}}2{\rm NO_2(g)} $$
この反応の反応速度は
$$v=k_r\no^2\o$$ と成るように思えます。そして、幸いなことに、実際も実験によりこの速度式に従うことが分かります。この速度式は3次反応でした。(2乗+1乗)
さて、実際にこれが素反応だとすると以上のような反応が常に起こっているということになります。(つまり、3つの分子が常に同じタイミングで衝突している)
このようなことはめったに起こらないと考えるのが普通です。そのため、この反応はいくつかの素反応が合わさった複合反応と考えるのが自然です。
現在提唱されている反応機構は以下のとおりです。
STEP1 NOの二量体$\rm N_2O_2$が生成
$${\rm NO} \ +{\rm NO} \ \overset{ k_a}{{\rightarrow}} \ {\rm N_2O_2}$$
$${\rm N_2O_2の生成速度}=k_a\no^2 $$
STEP2 $\rm N_2O_2$が分解
$${\rm N_2O_2}\ \overset{ k’_{a}}{{\rightarrow}} \ 2{\rm NO}$$
$${\rm N_2O_2の分解速度}=k’_a\nnoo $$
STEP3 $\rm N_2O_2とO_2の反応$
$${\rm N_2O_2}+{\rm O_2}\ \overset{ k_{b}}{{\rightarrow}} \ {\rm NO_2}+{\rm NO_2} $$
の3ステップにより反応が構成されています。この反応において、中間体は$\rm N_2O_2$です。
この反応をまとめると以下のとおりです。
$$\b
{\rm 2NO}&\overset{ k_a}{\underset{k’_a}{\rightleftharpoons}}&{\rm N_2O_2} \\
{\rm N_2O_2}+{\rm O_2}&\overset{k_b }{{\rightarrow}}&{\rm 2NO_2} \\
\e$$
$$\b
{\rm N_2O_2の減少速度}&=& k_b\nnoo\o\\
\df{\noo}{t}&=&2k_b\nnoo\o\tag{☆} \\
&&(上の係数「2」を忘れないように注意) \\
\e$$
定常状態近似を使っていきましょう。
$\df{\nnoo}{t}=k_a\no^2-k’_a\nnoo-k_b\nnoo\o=0$
整理すると、
$$\nnoo=\f{k_a\no^2}{k’_a+k_b\o}$$
これを$(☆)$式に代入すると、
$$\b
\df{\noo}{t}&=&\f{2k_ak_b\no^2\o}{k’_a+k_b\o} \\
\e$$
この式は実験式$\df{\noo}{t}=k_r\noo\o$とにています。
酸素分圧が小さければ、実験式を一致します。
つまり、これは反応条件によって、反応次数が違ってくることを表しています、
$${\rm N_2O_2の分解速度}>>{\rm N_2O_2+O_2の反応速度}$$だとすると、
$$k_a\nnoo>>k_b\nnoo\o $$k’_a>>k_b\o $$よって、このとき、
$${\rm NO_2の生成速度}≈\f{2k_ak_b\no^2\o}{k’_a} $k_r=\f{2k_ak_b}{k’_a}$$と表すことができるということができます。
つまり、STEP3が律速段階です。これを律速段階近似法といいます。
さて、これが律速段階近似でした。しかし、$\o$(酸素分圧)が非常に高くなると、$$k’_a>>k_b\o$$がなりたなくなるので、律速段階近似が適用できなくなります。この場合はどうなるでしょうか?
つまり、
$$k’_a<<k_b\o $$とすると、
$$\b
{\rm NO_2の生成速度}&=&\f{2k_ak_b\no^2\o}{k_b\o} \\
&=& 2k_a\no^2\\
\e $$
となり、$\df{\no}{t}$は$\o$に依存しなくなります。
このように、反応条件を変えることにより、反応の濃度依存性がかわるため、このような素反応のダイナミクスを決定する重要な判断材料となります。