アルコールの酸性度に影響を及ぼす要因

アルコールの酸性度はアルコキシドイオン(アルコールのヒドロキシ基からプロトンが抜けたアニオン)の安定性に依存しています。
そして、アルコキシドイオンの安定性に影響を与える要因は、
\begin{eqnarray}
(1&)&立体障害による溶媒和の妨害\\
(2&)&誘起効果\\
(3&)&共鳴効果
\end{eqnarray}の3つがあります。
つまり、これらの要因によってコキシドイオンが安定になれば、プロトンを放しやすい、つまりそのアルコールの酸性度は高くなります。逆にアルコキシドイオンが不安定になると、そのアルコールの酸性度は低くなります。これらの要因の具体例を見ていきます。

(1)立体障害による溶媒和の妨害

例はメタノール(${\rm p}K_{\rm a}=15.54$)とtert-ブタノール(${\rm p}K_{\rm a}=18$)です。
これらのアルコールから水素が抜けると、メタノールはメトキシドイオン($\rm CH_3O^-$),
tert-ブタノールはtert-ブトキシドイオン($\rm (CH_3)_3CO^-$)になります。
このように、アルコキシドイオンになると、まず、溶媒和されて安定化します。
しかし、tert-ブトキシドイオンは立体障害(メチル基が付近にたくさん存在し、溶媒が近づきにくい)のために、溶媒和しにくいのです。
そのため、アルコキシドイオンが不安定になり、嵩高いアルコールはそうでないアルコールよりも酸性度が低くなります。

(2)誘起効果

誘起効果はσ結合を通じて電子が引っ張られたり押し込まれたりする現象です。この誘起効果は結合が隔たる(距離が遠ざかるほど)小さくなるので、ヒドロキシ基が付いている炭素と結合している置換基のみを考慮します。

この場合、電子求引基がある場合はアルコキシドイオン($\rm R-O^-$)の酸素上の負電荷を分散できるため、アルコキシドイオンが安定化し、そのアルコールの酸性度は高くなります。
逆に、電子供与基がある場合は酸性度は低くなります。

(3)共鳴効果

共鳴効果はπ結合を通じて電子が引っ張られたり押し込まれたりする現象で、ベンゼンなどのπ共役系が存在する場合に見られます。π電子はπ共役系を自由に動くことができるので、π共役系に置換している基の電子求引性や電子供与性が影響してきます。

共鳴効果も遠くの基の影響を受けること以外は誘起効果と考え方は同じで、電子求引基がある場合はアルコキシドイオン($\rm R-O^-$)の酸素上の負電荷を分散できるため、アルコキシドイオンが安定化し、そのアルコールの酸性度は高り、電子供与基がある場合は酸性度は低くなります。

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