C-C結合の形成に用いられる代表的な有機金属試薬は以下の3種類である。
①Grignard試薬(グリニャール試薬)
②アルキルリチウム
③Gilman試薬
①と②は同じような反応をするが、違いは反応性にある。②のほうが①よりも反応性が高いが、取り扱いに注意が必要になる。
なぜ、②を取り上げるかというと、アルキルリチウムは③の試薬をつくるために必要だからだ。
③の特徴は純粋な炭化水素を合成できる点だ。①や②での反応では水と反応させることでしか炭化水素は作ることができないが、③では炭化水素同士を結合させることができる。
①Grignard試薬(グリニャール試薬)
特徴
グリニャール試薬はハロゲン化アルキルRX(ただしFXは除く)をエーテルやTHF(テトラヒドロフラン)溶媒中で金属マグネシウムと反応させて作る。この試薬は以下のように、Rーとしての反応性を持つためC-C結合を形成することができる。なぜなら弱酸のR-Hの共役塩基であるR-は強い塩基性を持つからである。
この試薬の作成方法
この試薬はハロゲン化アルキルRX(ただしFは除く)と金属Mgとの反応で行う。
この時、Rは官能基を持たないのが望ましい。具体的には、1級、2級、3級アルキル、アルケニル、アリールが望ましい。また、用いるハロゲンであるが、Clを用いる場合はBrやIより反応性がやや劣ることにも注意。
仮に、RにOH基がついていたとしたら、下のような反応が起きてしまい、Grignard試薬の作成は失敗する。
また、金属Mgは表面が酸化しているときは反応性が悪くなってしまう。そのときは、活性化剤として、ヨウ素やジブロモエタンを少量加えて、以下の反応を起こし、活性表面を露出させる必要がある。
この試薬を使った反応例
Grignard試薬は以下のような反応を起こす。その反応の種類は非常に多岐にわたる。そのため以下に挙げるのは、そのほんの一部にとなる。詳しく知りたい人はwikiを見よう。
②アルキルリチウム
アルキルリチウムもGridnard試薬と同様、電気陰性度が小さい原子であるリチウムとの化合物であるため、R-の反応性を持つ。求核試薬でかつ、強塩基であるこの試薬の化学は多くの点でGridnard試薬と類似している。
試薬の作成方法
このアルキルリチウムはハロゲン化アルキルと金属リチウムとの反応により作ることができる。ただし、反応性がGridnard試薬より高いため、この反応を起こすときの溶媒はエーテルでは反応してしまう。そのため、ペンタンやヘキサンといった非極性の有機溶媒中で行わなければならない。
アリールリチウム
アルキルリチウムのアルキル基がアリールに変わったアリールリチウムというしやくもある。これはアルキルリチウムのようにアリールと金属リチウムの直接反応によって作るのではなく、ハロゲン化アリールをアルキルリチウムと反応させ、ハロゲンリチウム交換を行うことで得る。
アルキルリチウムを用いた反応
反応自体はGridnard試薬と類似の反応性を持つため、割愛する。ただ、この反応自体は低温のエーテル中で行う。
アルキルリチウムの危険性
アルキルリチウムはRの種類によって危険度が変わってくる。以下は市販されているアルキルリチウムの危険度の違いである。
PhLi | ・・・ | やや危険 |
MeLi , BuLi | ・・・ | 危険 |
sec-BuLi | ・・・ | より危険 |
tert-BuLi | ・・・ | 激しく危険 |
特に最後のtert-BuLiは試薬瓶から注射器で採ったその注射器の先から火花が散るほど発火性が高い。
③Gilman試薬
この試薬の作成方法
Gilman試薬は、エーテル溶媒中で、アルキルリチウムとヨウ化銅(Ⅰ)を反応させることで作ることができる。
Gilman試薬を用いた反応
Gilman試薬の化学名はリチウムジオルガノクプラートといい、この試薬はフッ化物は除くハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、ハロゲン化アルケニルとカップリング反応をおこなうという点で有用である。