TEMPOは正式名称を2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルという、
ニトロキシラジカルの一種です。
ニトロキシラジカルは長寿命なものが多く、そのなかでもTEMPOは特に長寿命で、昇華させることも可能です。
(このような極めて安定で、長い寿命を持つラジカルのことを長寿命ラジカルといいます。)
TEMPOの安定性には、以下のN-O間の共鳴が大きく寄与していると考えられています。
TEMPOの用途
TEMPOは優れた第一級アルコール選択性をもつことが知られています。この特性は1983年にM・ESemmelhackらによって初めて指摘され、その後$\rm NaOCl$や$\rm PhI(OAc)_2$を始めとした実用性の高い強酸化剤が開発されることで、よく用いられるようになりました。特に糖化学分野においては2級水酸基を保護することなく第一級水酸基のみを選択的にカルボン酸への酸化して、ウロン酸単位を合成する手段として頻繁に利用されています。
TEMPOの反応機構
TEMPO酸化の反応機構は以下のように提唱されています。まず、TEMPOがバルク酸化剤によって酸化され、活性化本体であるオキソアンモニウムイオンを与えます。ここに基質のアルコールが結合した後、Cope型の分解を経てカルボニル化合物とヒドロキシルアミンを与えます。このヒドロキシルアミンが酸化されてTEMPOが再生することで触媒サイクルが一周します。
TEMPOが第一級アルコールを選択的に酸化する理由としては、活性中心であるNの近傍が立体的に混み合っているためであると考えられます。また、一般的にニトロ基シラジカルのα位炭素に水素が置換している場合、以下のようなヒドロキシルアミンとニトロンへの速やかな不均一化反応による分解してしまうことが知られていますが、TEMPOはα位に水素が置換していないため、そのような不均一化反応は起こりません。つまり、この特徴はTEMPOが安定である説明の1つでもあります。
α-水素を有するニトロキシラジカルの不均一化反応
TEMPOの酸化体の熱分解
TEMPOは安定な物質ではあるが、その酸化体である4-Oxo-TEMPOは下図のような特徴的な熱的分解を起こし、ヒドロキシルアミン体とニトロソ体を与えることが知られています。
このように、TEMPOの酸化体は必ずしも安定ではないことがわかります。