三中心ニ電子結合・三中心四電子結合

このページでは二種類の三中心結合(三中心ニ電子結合と三中心四原子)を具体例を挙げて説明します。

三中心ニ電子結合の例

三中心ニ原子結合の例はジボランです。
ジボランは以下のような構造をとっています。
$\rm B$原子は$sp^3$混成軌道を取ります。$\rm B$原子の価電子の数は3であり、$sp^3$混成軌道の3つに不対電子が存在します。そのうち2つは末端の水素原子$\rm H_1$の不対電子と電子対結合して、結合次数1の$\rm B-H_1$結合を作ります。
残りの$\rm B$原子の不対電子1個と架橋水素原子$\rm H_2$の$1s$電子及び隣の$\rm B$原子の空の$sp^3$混成軌道を使って、架橋部分の$\rm B-H_2-B$結合が作られます。$\rm Bsp^3$混成軌道と$\rm H 1s$軌道の軌道間相互作用の結果以下に示すようなMOができます。

※図において、
(a)は2つの$\rm B$原子が遠く離れて相互作用がない状態の$sp^3$混成軌道であり、片方の$\rm B$原子にしか電子が無いのは、2つの$\rm B-H_2-B$結合に用いられる$\rm B$の$sp^3$電子は2個であり、この図では、半分の1つの$\rm B-H_2-B$結合の軌道相互作用を表しているためである。
(b)$\rm B$を$\rm B_2H_6$の$B-B$の距離に近づけたときの2つの$\rm B$の$sp^3$混成軌道の相互作用である。
(c)は$\rm B_2H_6$における架橋$\rm H$($\rm H_1$)の$1s$軌道と(b)の状態の軌道との相互作用である。
(d)は相互作用していない$\rm H$の$1s$軌道である。

このMO図から、$\rm B-H_2$結合の結合次数は$\f12$であることがわかる。($\rm B-H_2-B$結合全体、つまり$\rm B-H_2$結合2つ分で結合次数が$1$であるため。)

また、非結合軌道において水素の軌道が描かれていないのは、$1s$の寄与がないためです。

このように、3つの原子という中心が2つの電子によって結合を形成している結合を三中心ニ電子結合といいます。この結合の結合次数は$\f12$であるため、結合次数が$1$である$\rm B-H_1$結合長よりも$\rm B-H_2$結合長のほうが長くなります。
($\rm B-H_1=1.19Å、B-H_2=1.33Å$)

三中心四電子結合

三中心四電子結合の具体例は$\rm ClF_3$です。$\rm ClF_3$は非共有電子対を2対エクアトリアル面内にもつ擬三方両錐型構造とみることができます。三方両錐の底面の三角形の位置をエクアトリアル位といい、エクアトリアル面に垂直な2つの位置をアピカル位といいます。エクアトリアル位のフッ素を$\rm F_e$アピカル位のフッ素を$\rm F_a$で表すことにします。また、以下ではアピカル位を$z$軸とします。
$\rm Cl$原子の電子配置は$\rm [Ne]3s^23p^5$で$3s$軌道と$3p_x,3p_y$軌道から$sp^2$混成軌道がつくられて、合計5個の電子が収容されます。そのうち4個は2対の非共有電子対となり、不対電子1個が$\rm F_e$原子の不対電子との電子対結合に使われます。この$\rm Cl-F_e$結合は単結合です。

$\rm Cl$原子の残りの2個の電子は、2つの$\rm F_e$原子の不対電子と次のような三中心結合に使われ、直線状の$\rm F_a-Cl-F_a$は実質的には2個の電子で結ばれ、$\rm Cl-F$結合次数は$\f12$となり、結合はイオン的で$\rm Cl-F_e$よりも結合が弱く長いです。(※実際に、$\rm F_a-Cl=1.698Å,F_e-Cl=1.598Å$です。)この$\rm F_a-Cl-F_a$結合を三中心四電子結合とよんでいますが、結合の本質は三中心ニ電子結合と同じです。(4電子の内2つが非結合性軌道にはいっているため。)

※図において、
(a)は2つの$\rm F$原子が遠く離れて相互作用がない状態の$\rm F p_{z}$軌道(ニ原子分)
(b)$\rm F$を$\rm CF_3$のときの$\rm F-F$の距離に近づけたときの2つの$\rm F \ 2p_z$軌道の相互作用です。
(c)$\rm ClF_3$の$\rm Cl$の位置にある$\rm Cl \ 3p_z$と(b)の状態の軌道と相互作用
(d)相互作用していない$\rm Cl$の$\rm 3p_z$軌道

参考)無機・分析化学演習 p13~p15

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