正スピネルと逆スピネル

スピネルは$\rm AB_2O_4$で表される複酸化物構造の一つである。$\rm A$は$\rm A^{2+}$、$\rm B$は$\rm B^{+3}$であることが多い。単位格子には立方最密充填した$32$個の酸素原子が存在し、$8$個の$\rm A^{2+}$と$16$個の$\rm B^{3+}$が存在する。また、四面体間隙は32個あり、その$\f14$がカチオンに占められ、八面体間隙も32個あり、その$\f12$がカチオンに占められることになります。また、単位格子の組成は$\rm A_8B_{16}O_{32}$である。

※このページでは、金属(カチオン)に占められた間隙をサイトと呼ぶことにします。
つまり、スピネルでは、四面体間隙の$\f14$が四面体サイトに、八面体間隙の$\f12$が八面体サイトになります。


$\rm AB_2O_4$の単位格子(図では酸素はXで表記)(※正スピネル)

$\rm AB_2O_4$の単位格子における四面体サイト(※正スピネル)
単位格子あたりでは四面体間隙は32個分存在し、
以上の図からその$\f14$の8個がカチオンによって占められていることがわかる。
($\f18×8+\f12×6+1×6=8$)

$\rm AB_2O_4$の単位格子における八面体サイト(※正スピネル)
単位格子あたりでは八面体間隙は32個分存在し、以上の図からその$\f12$である16個分がカチオンに占められていることがわかる。
($1×16$)

(図引用:http://symm.k.u-tokyo.ac.jp/members/otani/kenkyuu.html)

スピネル構造には二種類ある。

上の図で示したスピネル構造は$\rm A$イオンのすべてが四面体サイト、$\rm B$イオンのすべてが八面体間隙に入っている。このようなスピネルを正スピネル(normal spinel)という。

逆スピネルというものもある。逆スピネルでは、正スピネルとは逆で、$\rm A$イオンはすべて八面体サイトに入っている。そして、$\rm B$イオンは半分が四面体サイトに、残り半分の$\rm B$イオンが八面体サイトに入っている。

正スピネル構造をとるか、逆スピネル構造をとるかは、配位子場安定化エネルギー(LFSE: ligand field stabilization energy)や、Mardelung定数、AとBの相対的な大きさ、分極効果などの因子が影響している。

※LFSEを計算することによって、正スピネル構造を取るかか逆スピネル構造を取るかの判定ができるということを具体例として、以下の例題を挙げてみました。

例題
$$\b
&(1)&\rm NiFe_2O_4 \\
&(2)& \rm CoCr_2O_4\\
\e$$ の2つのスピネル型錯体を考える。
LFSEを計算し、それぞれのスピネル型錯体が正スピネル、逆スピネルどちらの構造を安定してとるか予想せよ。答えに至る過程も示せ。図は必要に応じて用いても構わない。
解答
(1)
$\rm Ni^{2+}$は$\rm d^8$配置を取るので、LFSEは
四面体構造:$-\f45Δ_t$ 八面体構造:$-\f65Δ_o$

$\rm Fe^{3+}$は$\rm d^5$配置をとるので、LFSEは
四面体構造:0 八面体構造:0

である。よって、これらを考えると、$\rm Ni^{2+}$が八面体構造をとったほうが安定である。
よって、逆スピネル構造を取る。

(2)
$\rm Co^{2+}$は$\rm d^7$配置をとるので、LFSEは
四面体構造:$-\f65Δ_t$ 八面体構造:$-\f45Δ_o$

$\rm Cr^{3+}$は$\rm d^3$配置をとるので、LFSEは
四面体構造:$-\f45Δ_t$ 八面体構造:$-\f65Δ_o$

であるので、$\rm Co^{2+}$が四面体構造をとった方が安定である。
よって、正スピネル構造をとる。

例題2
化合物$\rm FeAl_2O_4 , \ CoAl_2O_4, \ NiAl_2O_4$の中で、どれが最も逆スピネル構造を取りやすいか。

[解答]
$\rm NiAl_2O_4$

[解説]

以上で挙げられているスピネル錯体は$\rm Al^{3+}$が共通している。$\rm Al^{3+}$は$\rm d^0$なので、四面体間隙を占めても、八面体間隙を占めても、結晶場配位子場エネルギーはゼロで変わりません。そのため、ペアの金属のみを考えれば良いことになります。
ただ、今回は、例題1と異なり、結晶場配位子場エネルギーがどれだけ安定化するかを比較のために、定量化する必要があります。そのためには、$Δ_t=\f49Δ_o$の関係を知っている必要があります。

①$\rm FeAl_2O_4$
$\rm Fe^{2+}$は$\rm d^6$配置をとるので、LFSEは
四面体間隙:$\f35Δ_t$だけ安定化 八面体間隙:$\f25Δ_o$だけ安定化
よって、逆スピネルをとることで、
$\f25Δ_o-(\f35Δ_t×\f49)=\f{2}{15}Δ_o$だけ安定化する。

②$\rm CoAl_2O_4$
$\rm Co^{2+}$は$\rm d^7$配置をとるので、LFSEは
四面体間隙:$\f65Δ_t$だけ安定化 八面体間隙:$\f45Δ_o$だけ安定化
よって、逆スピネルをとることで、
$\f45Δ_o-(\f65Δ_t×\f49)=\f{4}{15}Δ_o$だけ安定化する。

③$\rm NiAl_2O_4$
$\rm Ni^{2+}$は$\rm d^8$配置をとるので、LFSEは
四面体間隙:$\f45Δ_t$だけ安定化 八面体間隙:$\f65Δ_o$だけ安定化
よって、逆スピネルをとることで、
$\f65Δ_o-(\f45Δ_t×\f49)=\f{38}{45}Δ_o$だけ安定化する。

よって、$\f{38}{45}Δ_o>\f{4}{15}Δ_o>\f{2}{15}Δ_o$となるため、最も逆スピネルを取りやすいのは、$\rm NiAl_2O_4$と考えることができます。

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