錯体の配位結合は弱い結合であるため、溶液内で平衡を起こします。
錯体を作ろうと思った時、溶液内で錯体に配位子をくっつけますが、金属が溶媒和しているため、水と配位子を置換する必要があります。
この置換の起こりやすさは置換活性・置換不活性と言われますが、
これはd電子数によって決まります。
いかではどのようにd軌道が置換反応に関与しているかを述べます。
金属錯体の配位子置換反応
金属錯体では、置換反応は、SN1型の解離機構とSN2型の会合機構の二つがあります。
解離機構(SN1型反応)が起こりやすいのは、配位子方向に分布を持つdz2,dx2−y2に電子が入っている時です。静電的な電子反発により、配位子が脱離しやすくなり、反応速度が上昇します。
6配位錯体の場合は、5つのd軌道のうち、dz2,dx2−y2の2軌道ががeg軌道で、エネルギーが上の軌道です。
ここに、電子が入るときの軌道は
高スピンではd4~d10の電子配置のときに、
低スピンではd7~d10の電子配置のときです。
つまり、このような電子配置のときにSN1反応(解離機構)が起きやすくなります。
逆に、会合機構(SN2型反応)は、配位子間の方向に分布をもつdx,dy,dzに空きがあるときに起こりやすくなります。なぜなら、置換する配位子が求核攻撃するときに、電子が存在すると、電子間反発により、金属イオンに近づけないからです。
つまり、dx,dy,dzに空きをもつd1,d2ではSN2反応(会合機構)が起こることになります。
つまり、置換反応が起こりやすいのは、以上の軌道を持つ金属イオンです。
それ以外が置換不活性ということになります。
置換不活性な金属錯体の代表例はd3のCr(Ⅲ)です。なので、これらは合成が難しいです。
他にも、低スピンであるということは、配位子場分裂が大きいため、C,Nが配位した錯体が置換不活性になりやすいです。具体的には、シアニド(CN−)錯体や、bpyの錯体やphenの錯体などです。
また、中心金属が4dおよび5dブロック遷移金属である場合も、結晶場安定化エネルギーが大きく、また金属ー配位子間の共有結合性が大きくなることから置換不活性になる場合が多いです。
歴史的には一旦合成したら安定に存在する置換不活性の錯体がよく研究されていましたが、
現在では高速で測定する技術が普及したため、置換活性、置換不活性についてはあまり気にする必要がないようです。