18電子則とその計算方法

金属の$\rm d$電子数と配位子から供与される電子数の合計(価電子数)が$18$のとき錯体が安定となる経験則を18電子則といいます。これは$\rm EAN$(effective atomic number)則を簡略化したものです。EAN則とは、金属の電子数と配位子から供与される電子数を合計したものを有効原子番号(EAN)といいい、これが希ガスの原子番号に等しいとき、錯体は安定となるという法則です。

18電子則の計算方法は、
金属の価電子数(d電子数ではない。また中性原子と考えたときの電子数)+(配位子の供与電子数)+(錯体の全体の電荷)=18
となるかどうかを考えます。
これを用いる例題を以下に2つ挙げてみました。

※(補足)
18電子則は経験則なので$d$ブロックの錯体に対して必ず成立するものではなく、例外も多いです。たとえば、5族以下のd電子の少ない金属では、18電子則を満たすために必要な配位子の数が多くなり、配位子間の立体反発による不安定化のため18電子に満たない錯体が見られます。(立体的に小さな配位子の場合には7配位錯体を形成して18電子則を満たせる場合もある。)また、9,10族の$\rm d^{8}$金属の場合、強い配位子場であれば、正方型錯体をつくるため、16電子となる場合が多いです。また、18電子則はfブロック有機金属錯体に対しては適用できません。

例題
フェロセン$\rm [Fe(C_5H_5)_2]$とコバルトセン$[\rm Co(C_5H_5)_2]$のは同じサンドイッチ錯体であるにもかかわらず、安定性にはおおきな差異が見られる。これらの安定性を論じ、その理由も示せ。

解答
錯体の総価電子数を数える。配位子および、金属を形式的にすべて中性であるとすると、
フェロセン$\rm [Fe(C_5H_5)_2]$は$\rm Fe(8)+2×(η^5-C_5H_5)(5)=18$より、18電子則を満たすため、安定であると考えられます。(※実際に空気中でも安定)
コバルトセン$[\rm Co(C_5H_5)_2]$は$\rm Co(9)+2×(η^5-C_5H_5)(5)=19$より、18電子より1多いため、不安定であると考えられます。(※実際に空気中で短時間なら取り扱える程度の安定性)
よって、18電子則の観点からの予想では、コバルトセンは$[\rm Co(C_5H_5)_2]^{+}$の方が安定です。(※実際、容易に1電子酸化されてコバルトセニウムイオン$[\rm Co(C_5H_5)_2]^{+}$となります。)

補足
実際には、サンドイッチ錯体では、中心金属は$\rm M^{2+}$、配位子であるシクロペンタジエニル配位子はモノアニオンであるので、
フェロセン$\rm [Fe(C_5H_5)_2]$は$\rm Fe^{2+}(6)+2×(η^5-C_5H_5)^{-}(6)=18$
コバルトセン$[\rm Co(C_5H_5)_2]$は$\rm Co^{2+}(7)+2×(η^5-C_5H_5)^{-}(6)=19$という数え方が本来ですが、形式的に中性だとしたほうが混乱が生じにくいため、解答では金属、配位子ともに中性であるとして、総価電子数を数えています。

例題2
$\rm Cr,Mn,Fe,Co,Ni$の最も安定な金属カルボニル錯体の構造を、18電子則を計算することで予測せよ。

[解答]
18電子則を計算するときは、金属の価電子数(d電子数ではない。また中性原子と考えたときの電子数)+(配位子の供与電子数)+(錯体全体の電荷)=18となるような構造を探せば良いです。
今回のカルボニル錯体の錯体全体の電荷はありませんので、0です。
また、COの配位子としての供与電子数は2なので、それで計算します。

・Crの場合
金属の価電子数(中性原子と考えたときの電子数)+(配位子の供与電子数)=18となるようにすると、クロムの価電子数は6なので、
$\rm 6(Cr)+2×6(CO)=18$となります。よって、
化学式は$\rm [Cr(CO)_6]$、
構造はとなります。

・Mnの場合
金属の価電子数(中性原子と考えたときのもの)+(配位子の供与電子数)=18となるようにすると、マンガンのd電子は7と奇数なので、Crと同じように考えると、
$\rm 7(Mn)+2×5(CO)=17$や、$\rm 7(Mn)+2×6(CO)=19$となり、どうしても18電子になりません。つまり、1つMnだけでは18電子則を満たすことができません。よって、1分子にマンガンが2分子存在する複核錯体を考える必要があります。つまり、価電子が奇数個の場合は不対電子を出し合って、金属ー金属結合を形成します。この結合は相手金属から出してもらった1電子分を加算します。
計算式は以下のようになります。
$\rm Mn(7)+2×5(CO)+1(Mn-Mn)=18$
化学式は$\rm [Mn_2(CO)_{10}]$となります。
構造は以下のようになります。

つまり、この2つからわかることは、カルボニル錯体の場合、中心金属の価電子数が偶数である場合は単核錯体、価電子数が奇数である場合は複核錯体を形成するということです。

・Feの場合、
Feの価電子数は8と偶数なので単核錯体です。
$\rm 8(Fe)+2×5(CO)=18$となります。よって、
化学式は$\rm [Fe(CO)_5]$です。
構造は
となります。

・Coの場合
Coの価電子数は9と奇数なので、複核錯体です。ただ、Mnの場合と異なり、異性体が存在します。
COの電子供与数は2と言いましたが、架橋構造をとることで、1金属あたり1電子として考えることができます。そのため、マンガンのときのような複核錯体に加えて、CO二分子が架橋構造をとった複核錯体も考えることができます。
計算式は、
(A):$\rm Co(9)+2×4(CO)+1(Co-Co)=18$
(B):$\rm Co(9)+2×3(CO)+1×2(架橋CO)+1(Co-Co)=18$
化学式いずれも$\rm [Co_2(CO)_8]$となります。

・Niの場合
Niの価電子数は10なので、単核錯体となります。
$\rm 10(Ni)+2×4(CO)=18$となります。よって、
化学式は$\rm [Ni(CO)_4]$です。
構造はとなります。

参考)竹田満洲雄「無機・分析化学演習」p136 p138

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