このページでは5つの酸ー塩基の定義を書きます。ラックス-フラッド(Lux-Flood)の酸塩基の定義を除いて、
アーレニウス(Arrhenius)<ブレンステッド-ローリー(Brønsted–Lowry)<ルイス(Lewis)<ウサノビッチ(Usanovitch)
の順番で一般的になっていきます。
アーレニウス(Arrhenius)の酸塩基の定義
アーレニウス(Arrhenius)の酸塩基の定義では、水に溶けて水素イオンを放出するものを酸、水に溶けて水酸化物イオンを放出するものを塩基と定義します。
この定義に従えば、酸と塩基が反応すると必ず水が生成し、これが中和反応であると定められます。
ブレンステッド-ローリー(Brønsted–Lowry)の酸塩基の定義
ブレンステッド・ローリー(Brønsted–Lowry)の酸塩基の定義では、溶媒の自己解離の結果として生じる陽イオン性化学種を増加させるような溶質を酸、溶媒の自己解離の結果として生じる陰イオン性化学種を増加させるような溶質を塩基と定義します。
アレーニウスの酸・塩基の定義では、酸塩基反応は水という溶媒中の反応に限定されていました。しかし、ブレンステッド・ローリー(Brønsted–Lowry)の酸塩基の定義では、酸塩基反応は「著しい自己解離反応を有する溶媒中の反応」にまで拡張されます。
例えば濃硫酸を溶媒、酢酸を溶質として反応させた際、溶媒である硫酸は
2H2SO4→H3SO+4+HSO−4というように自己解離します。それに対して、酢酸は
CH3COOH+H2SO4→CH3COOH+2+HSO−4のように反応を起こします。ここでは、溶媒の陰イオン性化学種(ここでいうとHSO−4)を増加させているので酢酸は塩基として振る舞っているといえます。(アーレニウスの定義に従えば、酢酸も硫酸も絶対的に酸です。(水との反応性でのみ酸・塩基は決定されるため))
逆に、酢酸を溶媒、硫酸を溶質、としてみた場合は、溶媒の陽イオン性化学種(ここでいうとCH3COOH+2)を増加させているので硫酸は酸として振る舞っているといえます。
このように、ブレンステッド-ローリーの定義は、酸あるいは塩基の性格というのは溶媒に関連して決まると主張します。
このように、ブレンステッド-ローリーは酸塩基反応を水溶液中のみの議論から著しい自己解離を有する溶媒(気体や固体を含めた)の議論へと拡張させました。
ラックス-フラッド(Lux-Flood)の酸・塩基の定義
ラックス-フラッド(Lux-Flood)の酸・塩基の定義では酸化物イオン受容体を酸、酸化物イオン供与体を塩基、と定義します。
このような定義が提唱された理由は以下の通りです。
例えば、下の反応のから分かるように、CaOは水と反応して塩基になる、塩基無水物です。
また、CO2は水と反応して酸になる酸無水物です。
CaO+H2O→Ca(OH)2CO2+H2O→H2CO3 そのため、CaOをCO2を水中で反応させたら直ちにCa(OH)2とH2CO3になり、以下のような中和反応が起こります。
Ca(OH)2+H2SO4→CaCO3+2H2Oしかし、CaOとCO2はこのように水(溶媒)に溶かさずとも直接反応することができます。
CaO+CO2→CaCO3そのため、この反応も酸塩基反応として捉えたほうが自然ではないのかという要請から生まれたのがこのラックス-フラッドの酸塩基の定義です。
この酸・塩基の定義はセラミックスや冶金の分野でよく見られる高温の無水系を扱うときによく用いられるものです。
ルイス(Lewis)の酸・塩基の定義
ルイスの酸塩基の定義では電子対受容体を酸、電子対供与体を塩基と定義します。
最も簡単な例は以下の例で、
H++:OH−→H:OHこのようにプロトンは電子対受容体、塩基である水酸化物イオンは電子対供与体であることがわかります。
このルイスの定義では、極めて多くの系を含んでいます。下のような反応もルイスの定義に従えば酸塩基反応です。
H3N:(ルイス塩基)+BF3(ルイス酸)→H3N:BF3
また、金属に配位する配位子は中心の金属陽イオンに電子対を供与しているため、ルイス塩基とみなすことができます。つまり、ある配位子のある金属イオンへの結合のしやすさはルイス塩基性の強さといえます。逆に、ルイス酸性の強さは、ある金属イオンのある配位子への配位結合のしやすさといえます。このルイス塩基性やルイス酸性というのは配位子と金属の組み合わせによって決まってきます。おおよその傾向はHSAB則が説明していて、たとえば、硬い塩基の配位子は硬い金属に対してはルイス塩基性が強いですが、柔らかい金属に関してはルイス塩基性が弱いといえます。
ウサノビッチ(Usanovitch)の酸・塩基の定義
ウサノビッチの酸・塩基の定義では、酸は電子を与えるもの、塩基は電子を受容するものと定義されます。
この定義に従うと、酸塩基反応は究極にはすべての化学反応を包括することになり拡張解釈が過ぎます。そのため今日ではこの定義が用いられることはほとんどありません。