ダイヤモンドを作るために必要な圧力を計算してみよう

グラファイトは常温でも圧力を高めると、ダイヤモンドに変えることができます。単なる炭素をダイヤモンドに変えるために必要な圧力は計算することができます。

反応が進むためには、ギブズの自由エネルギーが等しくなる必要があります。そのため、ギブズの自由エネルギーが等しくなるような圧力を計算すれば良いことになります。

室温でダイヤモンドに変えるために必要な圧力を計算する

例えば、室温$25℃$の状態は維持し、圧力を変えるだけでグラファイトをダイヤモンドにするために必要な圧力は、室温でのギブズの自由エネルギーの相対値$ΔG\stst$とグラファイトとダイヤの密度から求めることができます。

実際に求めてみます。

\begin{array}{cc}
\hline
   &  ※ΔG\stst[{\rm J \ mol^{-1}}]&密度[{\rm g \ cm^{-3}}]\\ \hline
   グラファイト& 0.0&2.26\\
  ダイヤモンド &2,830&3.51  \\ \hline
※\rm 1atm 298Kにおける相対値
\end{array}

自由エネルギー$\d G$は、$\d G=V\d p-S dT$と表せますが、今回は等温過程なので、$\d T=0$です。そのため、$\d G=V\d p$です。
また、計算時は単位の関係上、1atmではなく、$\rm Pa$で計算する必要があります。

よって、$1atm=p_0$、求める圧力を$p$とし、圧力$p$における自由エネルギーを$ΔG_p$とすると、
$$\b
ΔG_{pグラファイト}&=&ΔG_{pダイヤ} \\
ΔG\stst_{グラファイト}+\int_{p_0}^{p}V_{グラファイト} \d P&=&ΔG\stst_{ダイヤ}+\int_{p_0}^{p}V_{ダイヤ} \d P \\
0+\int_{p_0}^{p}V_{グラファイト} \d P&=&2830+\int_{p_0}^{p}V_{ダイヤ} \d P \\
&&密度が一定、つまり、体積が一定であるとすると \\
V_{グラファイト}\s{p-p_0}&=&2830+V_{ダイヤ}\s{p-p_0} \\
p-p_0&=&\f{2830}{V_{グラファイト}-V_{ダイヤ}} \\
p&=& \f{2830}{V_{グラファイト}-V_{ダイヤ}}+p_0\tag{1}\\
&&ここで、1\rm molあたりの体積はそれぞれ \\
V_{グラファイト}&=&\f{12[{\rm g/mol}]}{2.26[{\rm g/cm^{-3}}]}=5.3×10^{-6}[{\rm m^3/mol}] \\
V_{ダイヤ}&=&\f{12[{\rm g/mol}]}{3.51[{\rm g/cm^{-3}}]}=3.4×10^{-6}[{\rm m^3/mol}] \\
&&また、\rm 1atm=1.013×10^5Pa\\
&&であるから、これらを(1)式に代入すると、\\
p&=&\f{2830}{5.3×10^{-6}-3.4×10^{-6}}+1.013×10^5\\
&=&1.49×10^{9}[{\rm Pa}]\\
\e $$となります。よって、必要な圧力は$1.49×10^{9}[{\rm Pa}]$であることがわかります。
これは実に、大気圧の1万5000倍の圧力です。

それでは、$\d G=V\d p-S\d T$なので、気圧以外にも、温度を変えれば、このギブズエネルギーを変化させることができます。そのため、次は、圧力を一定にしたまま、温度を変えることによって、ダイヤモンドができるかどうか計算してみます。

1気圧でダイヤモンドは生成する?

それでは、次は気圧は1気圧に戻して、温度を変えることによって、ダイヤが生成するかどうか計算してみます。等圧過程ですので、$\d p=0$つまり、$\d G=V\d p -S\d T=-S\d T$となるので、温度を求めたい場合は、室温でのギブズの自由エネルギー$ΔG\stst$とエントロピー$S$がわかれば求めることができます。

\begin{array}{cc}
\hline
   &  ※ΔG\stst[{\rm J \ mol^{-1}}]&S[{\rm J \ K^{-1} \ mol^{-1}}]\\ \hline
   グラファイト& 0.0&5.74 \\
  ダイヤモンド &2,830&2.37  \\ \hline
※\rm 1atm 298Kにおける相対値
\end{array}

計算してみます。
よって、$25℃=298K$で、求める温度を$T$とし、温度$T$における自由エネルギーを$ΔG_T$とすると、
$$\b
ΔG_{Tグラファイト}&=&ΔG_{Tダイヤ} \\
ΔG\stst_{グラファイト}+\int_{298}^{T}-S_{グラファイト} \d T&=&ΔG\stst_{ダイヤ}+\int_{298}^{T}-S_{ダイヤ} \d T \\
0+\int_{25}^{T}-S_{グラファイト} \d T&=&2830+\int_{298}^{T}-S_{ダイヤ} \d P \\
&&エントロピーが一定であるとすると \\
-S_{グラファイト}\s{T-298}&=&2830+(-S_{ダイヤ}\s{T-298}) \\
T-298&=&\f{2830}{-S_{グラファイト}-(-S_{ダイヤ})} \\
T&=& \f{2830}{S_{ダイヤ}-S_{グラファイト}}+298\\
T&=&\f{2830}{2.37-5.74}+298\\
&=&-542[{\rm K}]\\
\e $$となります。

よって、$-542\rm K$という温度は実在しないので、1気圧のままで、温度を変化させてダイヤを生成させることはできません。

実際にはどのように作られているのか?

このように、上の例からわかるように、ダイヤは低い温度で作ろうと思えば、高い圧力が必要で、低い圧力で作ろうと思えば、低い温度が必要です。

つまり、ダイヤを生成させるためには、
できるだけ低い温度で、高い圧力をかければよいことになります。

しかし、実際には、高い圧力をかけるとどうしても物体は熱くなります。そのため、さらに高い圧力が必要になります。

ダイヤの工業的製法の一つに高温高圧法がありますが、これにおいては、
1500℃、5万気圧という条件で作られています。

つまり、先程求めた、室温でのダイヤ生成に必要な圧力(1.5万気圧)よりも3倍以上も高い圧力をかける必要があるのです。

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