フントの法則は電子の運動状態に関する規則である。
具体的には同一エネルギーの軌道に電子が収容されるとき、どう入るのか?ということを説明している。
フントの法則は第三法則まである。また、この法則は、第一法則>第二法則>第三法則の順番で優先される。
第1法則
2個の電子のスピン角運動量は同じ向きが安定
第2法則
1個の電子のスピン角運動量と軌道角運動量は逆向きが安定
第3法則
2個の電子の軌道角運動量は同じ向きが安定
この法則を用いると、p軌道やd軌道の電子の入り方は以下のようになる
1)p軌道
ms(スピン磁気量子数)について、
ms= 1/2・・・↑
ms=ー1/2・・・↓
であらわすと、
mlの値 | p1 | p2 | p3 | p4 | p5 | p6 |
+1 | ↑ | ↑↓ | ↑↓ | ↑ ↓ | ||
0 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑↓ | ↑↓ | |
-1 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑↓ |
と表せられる。
第一法則はp3まで↑が入り続けることに現れている。
第二法則はp1の↑がml=-1の軌道から入り、$p^4$は↓が$m_l=1$の軌道から入ることに現れている。
第三法則は$l$ができるだけ符号を打ち消さないように入っていく(つまり、下から順番に上方向に、$p^4$以降は上から順番に下方向に)ことに現れている。
2)d軌道
mlの値 | d1 | d2 | d3 | d4 | d5 | d6 | d7 | d8 | d9 | d10 |
+2 | ↑ | ↑↓ | ↑↓ | ↑↓ | ↑↓ | ↑↓ | ||||
+1 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑↓ | ↑↓ | ↑↓ | ↑↓ | |||
0 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑↓ | ↑↓ | ↑↓ | ||
-1 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑↓ | ↑ ↓ | ↑↓ | |
-2 | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑ | ↑↓ | ↑↓ |
Σms | 0.5 | 1 | 1.5 | 2 | 2.5 | 2 | 1.5 | 1 | 0.5 | 0 |
Σml | -2 | -3 | -3 | -2 | 0 | 2 | 3 | 3 | 2 | 0 |
代表的な金属 |
Fe2+ Mn2+ |
Fe3+ | Co2+ | Ni2+ |
ここで見てわかるように、d1~d4までは軌道磁気量子数とスピン磁気量子数がうち消しあっている。よって、磁性が弱い。
一方d5~d8ぐらいまでは軌道磁気量子数とスピン磁気量子数が同じ正の数で、強めあっている。よって、角運動量が大きいほど磁性が強いといえるので、実際表を見てわかるようにこの軌道を持つ金属が、強磁性体として用いられている。
項の記号を用いたフントの法則
フントの法則を項の記号で表すと、以下のようになります。
第一法則
最大の$S$をもつ状態が最安定であり、$S$が小さくなるにつれて安定性が減少する。
第二法則
同じ$S$をもつ状態では最大の$L$をもつ状態が最安定である。
第三法則
$S$と$L$が同じである場合、副殻が半分より少なくしか占有されていない場合は最小の$J$の状態が再安定であり、副殻が半分より多く占有されていれば最大の$J$の状態が最安定である。
参考)
マッカーリ・サイモン 物理化学 上 p327