熱力学第二法則は孤立系で自発変化(不可逆変化)が起こったときに熱平衡に至るまで、エントロピーが増大するものでした。
しかし、これはあくまで孤立系にのみ適用できるものです。これを閉鎖系まで拡張します。
その際に、自由エネルギーという概念が導入されます。このページでは2つある自由エネルギーの内、定容ver.であるヘルムホルツの自由エネルギーを求めます。(もう一方の自由エネルギーはギブズの自由エネルギーといいます。)
まず、孤立系のエントロピー変化を系のエントロピー変化と外界のエントロピー変化に分けて考えます。
$$ΔS_{孤立系(宇宙全体)}=ΔS_{系(閉鎖系)}+ΔS_{外界(閉鎖系)}\tag1$$ここで、右辺をすべて系の熱力学量で統一したいので、外界のエントロピーを系に熱力学量で表すことを考えます。
外界かが系から熱量$Q_{外界}$を受け取ったとき、その量は系の失った熱量$-Q_{系}$と等しいです。つまり、
$$Q_{外界}=-Q_{系}$$です。よって、このとき、系と外界の温度は$T$で一定とすると、エントロピーの定義式より、
$$ΔS_{外界}=\f{Q_{外界}}{T}=\f{-Q_{系}}{T}$$です。これを$(1)$式に代入すると、 \begin{eqnarray}
ΔS_{孤立系(宇宙全体)}&=&ΔS_{系(閉鎖系)}+\f{-Q_{系}}{T}\\
ΔS_{孤立系(宇宙全体)}&=&ΔS_{系(閉鎖系)}-\f{Q_{系}}{T}
\end{eqnarray}
このとき、この熱のやり取りが定容過程で行われたとすると、$Q_{系}=ΔU_{系}$となるので、これを上の式に代入すると、
$$ΔS_{孤立系(宇宙全体)}=ΔS_{系(閉鎖系)}-\f{ΔU_{系,閉鎖系}}{T}\tag2$$となります。
これで、等温・定容という条件付きですが、孤立系である宇宙全体のエントロピー変化を、閉鎖系の状態量のみで表すことができました。
熱力学第二法則では自発変化(不可逆変化)は起こるとエントロピーが増大しました。逆をいうと、自発変化が起こるかどうかはエントロピーが正になるかどうかで判断ができます。しかし、このエントロピーは孤立系のパラメータです。そのため、この熱力学第二法則を拡張して、自発変化が起こるかどうかを閉鎖系のパラメータで判断できるようにしたいです。そこで、$(2)$式を変形します。
\begin{eqnarray}
ΔS_{孤立系(宇宙全体)}&=&ΔS_{系(閉鎖系)}-\f{ΔU_{系,閉鎖系}}{T}\tag2\\
ΔS_{孤立系(宇宙全体)}&=&-\f{\underline{ΔU_{系,閉鎖系}-TΔS_{系,閉鎖系}}}{T}
\end{eqnarray}
この式において、$T>0$であるので、下線部の閉鎖系の状態量のみで表された部分は、自発変化が起こる時(つまり$S>0$のとき)
$$\underline{ΔU_{系,閉鎖系}-TΔS_{系,閉鎖系}}<0\tag3$$となります。
つまり、下線部の閉鎖系の状態量を組み合わせた部分が負になる場合は、自発変化が起こるということです。これで、閉鎖系の状態量だけで、その変化が自発的に変化(不可逆的変化)するかどうかの判断ができるようになりました。この「閉鎖系の状態量を組み合わせた部分」と毎回毎回言うのが面倒なので、これを新しい記号で置きます。実際には以下の新たな熱力学量を導入します
$$A≡U-TS$$これを用いて$(3)$式を表します。$A≡U-TS$より、
$$ΔA_{系,閉鎖系}=ΔU_{系,閉鎖系}-TΔS_{系,閉鎖系}$$なので、
$(3)$式を$A$で表すと、
$$A<0$$となります。これで、簡便に記述できます。
この$A$をヘルムホルツの自由エネルギーと言います。
ヘルムホルツの自由エネルギーで等温定容過程における閉鎖系での自発変化の判別が行えることがわかりました。次は、これが自由エネルギーと呼ばれる理由を説明します。
定容過程の場合は、系は外界に対して膨張仕事をしません。しかし、仕事は膨張仕事だけではなく、電気仕事や光仕事などがあります。これら、膨張仕事以外の形態の仕事のことを非膨張仕事といいます。定容過程においては、系が外界にする仕事はすべてこの非膨張仕事です。
そのため、定容過程において、熱力学第一法則は以下のようになります。
$$ΔU=Q+W_{非膨張}\tag4$$また熱力学第二法則より$Q≦TΔS$なので、これを$(4)$式に代入すると、
\begin{eqnarray}
ΔU&≦&TΔS+W_{非膨張}\\
ΔU-TΔS&≦&W_{非膨張}\\
ΔA&≦&W_{非膨張}\tag5
\end{eqnarray}
という関係式が成り立ちます。
ここで実際に興味があるのは、外界が系にする仕事非膨張仕事$W_{非膨張}$ではなく、系が外界にする非膨張仕事$-W_{非膨張}$であるので、$(5)$式の両辺に$-1$をかけると、
$$-W_{非膨張}≦-ΔA\tag6$$となります。これは等温提要過程が進んだときに、系が外界になし得る非膨張仕事$-W_{非膨張}$に上限があることをしめしています。
自由エネルギーの説明をするために、$(6)$式の$ΔA$をいったん$ΔU-TΔS$に戻します。
$$-W_{非膨張}≦-(ΔU-TΔS) $$これは、内部エネルギーの減少分$-ΔU$をすべて非膨張仕事としては取り出すことができず、内部エネルギー変化分から$TΔS$が差し引かれたものが取り出し得る最大の非膨張の仕事であることを意味しています。
この内部エネルギー変化の内、絶対に仕事として使えないエネルギーを(この例では$TΔS$です。)束縛エネルギー。
一方、内部エネルギー変化のうち、仕事として、自由に変換することができるエネルギーのことを自由エネルギー(この例では$ΔU-TΔS$つまり、$ΔA$ギブズの自由エネルギー)といいます。