二段階反応の速度論

$\newcommand\fd[2]{ \f{\d {#1}}{\d{#2}} }$
$${\rm A}\xrightarrow{k_1}{\rm I}\xrightarrow{k_2} {\rm P} $$以上のような二段階反応を考えます($\rm I$は中間体「Intermediate」の頭文字、$\rm P$は生成物「Products」の頭文字です。)
このとき、任意の時間$t$における各成分の濃度を$A(t)$、$I(t)$、$P(t)$で表し、
始状態($t=0$のとき)では反応物$\rm A$のみが存在するとします。
そして、その$\rm A$の初濃度$A(0)$を$A(0)=A_0$とします。

このページでは、この二段階反応における、任意の時間$t$における各成分の濃度$A(t)$、$I(t)$、$P(t)$を求めます。


この二段階反応は以下の3つの微分方程式によって表すことができます。
$$\b
\fd{A(t)}{t}&=&-k_1A(t)\tag1\\
\fd{I(t)}{t}&=&k_1A(t)-k_2I(t)\tag2\\
\fd{P(t)}{t}&=&k_2I(t)\tag3
\e$$ $(1)$式より、
$$\b \fd{A(t)}{t}&=&-k_1A(t)\\
\f{\d A(t)}{A(t)}&=&-k_1\d t\\
\ln{A(t)}&=&-k_1t+c\tag4\\
&&(\because 両辺を積分しました。cは積分定数です。)
\e$$ となります。ここで、始状態($t=0$の状態)は反応物$A$のみが存在するので、。
$A(0)=A_0,I(0)=P(0)=0$です。$(4)$式に$t=0$を代入すると、$A(0)=A_0$であるから、
$$\b \ln{A_0}&=&-k_1×0+c\\ c&=&\ln{A_0} \e$$となります。これを$(4)$式に代入すると、
$$\b \ln{A(t)}&=&-k_1t+\ln{A_0} \\
\ln{\fp{A(t)}{A_0}}&=&-k_1t\\
\f{A(t)}{A_0}&=&e^{-k_1t}\\
A(t)&=&A_0e^{-k_1t}\tag5
\e$$となります。$(5)$式を$(2)$式に代入します。すると以下のようになります。
$$\b \fd{I(t)}{t}&=&k_1e^{-k_1t}-k_2I(t)\\
\fd{I(t)}{t}+k_2I(t)&=&k_1A_0e^{-k_1t}\tag6
\e$$$(6)$式の微分方程式は
$$\fd{y(x)}{x}+p(x)y(x)=q(x)\quad(ただし、p(x)とq(x)は既知の関数)\tag{★}$$において、$x=t$、$y(x)=I(t)$、$p(x)=k_2$、$q(x)=k_1A_0e^{-k_1t}$としたときと同じ形です。
$(★)$式の解は
$$y(x)=e^{-\int{p(x)}\d x}\left[ \it q(x)e^{\int{p(x)}\d x }\d x + β\right]\quad(βは積分定数)$$です。($(★)$式の解の求め方はこちらをご参照ください)
そのため、$(6)$式の解は
$$\b
I(t)&=&e^{-\int k_2 \d t}\left[ \it k_1A_0e^{-k_1t} e^{\int k_2 \d t}\d t+ β \right]\\
I(t)&=&e^{-k_2t}\left[k_1A_0 \it e^{-k_1t} e^{k_2t}\d t+ β \right]\\
I(t)&=&e^{-k_2t}\left[ k_1A_0\it e^{(k_2-k_1)t}\d t +β \right]\\
I(t)&=&e^{-k_2t}\left[ k_1A_0 \f{e^{(k_2-k_1)t}}{k_1-k_2} + β \right]\\
I(t)&=& k_1A_0 \f{e^{-k_2t+(k_2-k_1)t}}{k_1-k_2} + βe^{-k_2t}\\
I(t)&=&\f{k_1A_0e^{-k_1t}}{k_2-k_1}+βe^{-k_2t}\tag7
\e$$となります。$(7)$式に$t=0$を代入すると、
$$\b I(0)&=&\f{k_1A_0e^{-k_1・0}}{k_2-k_1}+βe^{-k_2・0}\\
I(0)&=&\f{k_1A_0・1}{k_2-k_1}+β・1\\
0&=&\f{k_1A_0}{k_2-k_1}+β\\
&&(\because 初期条件(始状態の条件)I(0)=0を代入)\\
β&=&-\f{k_1A_0}{k_2-k_1}\tag8
\e$$$(8)$式を$(7)$式に代入すると、
$$\b
I(t)&=&\f{k_1A_0e^{-k_1t}}{k_2-k_1}+\left( -\f{k_1A_0}{k_2-k_1}\right) e^{-k_2t}\\
I(t)&=&\f{k_1A_0}{k_2-k_1}\left( e^{-k_1t} – e^{-k_2t}\right)\tag9
\e$$よって、$P(t)=A_0-A(t)-I(t)$であるから、これに$(5)$式と$(9)$式を代入すると、
$$\b P(t)&=&A_0-A_0e^{-k_1t}-\f{k_1A_0}{k_2-k_1}\left( e^{-k_1t} – e^{-k_2t}\right)\\
&=&A_0\left\{ 1-e^{-k_1t}-\f{k_1}{k_2-k_1}\left( e^{-k_1t}-e^{-k_2t} \right) \right\}\\
&=&A_0\left\{ 1-\f{k_2-k_1}{k_2-k_1}e^{-k_1t}-\f{k_1}{k_2-k_1}\left( e^{-k_1t}-e^{-k_2t} \right)\right\}\\
&=&A_0\left[ 1-\f{1}{k_2-k_1}\left\{ (k_2-k_1)e^{-k_1t}+ k_1e^{-k_1t}-k_2e^{-k_2t} \right\}\right]\\
&=&A_0\left\{ 1-\f{1}{k_2-k_1}\left( k_2e^{-k_1t}-k_1e^{-k_2t} \right)\right\}\\
&=&A_0\left\{ 1+\f{1}{k_1-k_2}\left( k_2e^{-k_1t}-k_1e^{-k_2t} \right)\right\}\\
\e$$となります。


以上より、$A(t)$、$I(t)$、$P(t)$がすべて出ました。
まとめると、反応物$A$の初濃度を$A_0$としたとき、
$${\rm A}\xrightarrow{k_1}{\rm I}\xrightarrow{k_2} {\rm P}$$という二段階反応における任意の時間$t$における各成分の濃度$A(t)$、$I(t)$、$P(t)$は
$$\b A(t)&=&A_0e^{-k_1t}\tag5\\
I(t)&=&\f{k_1A_0e^{-k_1t}}{k_2-k_1}+βe^{-k_2t}\tag7\\
P(t)&=&A_0\left\{ 1+\f{1}{k_1-k_2}\left( k_2e^{-k_1t}-k_1e^{-k_2t} \right)\right\}\tag9
\e$$です。

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