凝固点降下・沸点上昇

純粋な液体に他の成分を混ぜると、その液体の蒸気圧は低下します。沸騰というのは、蒸気圧が外気圧と等しくなったときに起こる現象です。つまり、蒸気圧が下がればその液体を沸騰させるには蒸気圧を外気圧と等しくするために必要なエネルギーがより必要になるため、温度をあげなくてはなりません。

いまから、沸点上昇や凝固点降下について見ていきます。

いくつかの仮定をしますが、化学ポテンシャルを用いると、沸点上昇の度合いを定量的に見積もることができます。

いま、ある成分$i$からなる純粋な液体に、ごくわずかな成分$j$を溶質として混ぜたとします。このとき、成分$j$を不揮発性とすると、溶液と平衡に達している気体の成分は溶媒の$i$一成分のみということになる。この$i$について溶液と気体が平衡に達しているので、以下の関係式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
μ^{*}_{i-気体}&=&μ_{i-溶液}\\
μ_{i-溶液}&=&μ^{*}_{i-純溶媒}+RT\ln χ_{溶媒}より\\
μ^{*}_{i-気体}&=&μ^{*}_{i-純溶媒}+RT\ln χ_{溶媒} \\
\ln χ_{溶媒}&=&\f{μ^{*}_{i-気体}-μ^{*}_{i-純溶媒}}{RT}\tag{1} \\
\end{eqnarray}

ここで、溶媒と溶質のモル分率をそれぞれ$χ_{溶媒}$、$χ_{溶質}$とします。(ここでは一番簡単な溶媒と溶質がそれぞれ1成分のみの系仮定します。)
そうすると、
\begin{eqnarray}
χ_{溶媒}+χ_{溶質}&=&1 \\
χ_{溶媒}&=&1-χ_{溶質} \\
\end{eqnarray}
が成り立ちます。

これを(1)式に代入すると、
\begin{eqnarray}
\ln χ_{溶媒}&=&\f{μ^{*}_{i-気体}-μ^{*}_{i-純溶媒}}{RT} \\
\ln (1-χ_{溶質})&=&\f{μ^{*}_{i-気体}-μ^{*}_{i-純溶媒}}{RT} \\
このとき、χ_{溶質}<<1において&、&以下の近似式が成り立ちます \\
\ln (1-χ_{溶質})&≈&-χ_{溶質} \\
そのため&、& \\
-χ_{溶質}&=&\f{Δμ_{i-蒸発}}{RT}\\
\end{eqnarray}
ここで、化学ポテンシャル変化はあまり簡単にもとめることができないので、化学ポテンシャルをもっと求めやすい部分モルエンタルピー変化に書き換えることを考えます。
ギブズ-ヘルムホルツの式$\l{\ddp{}{T}\s{\f{ΔG}{T}}}_{P}=-\f{ΔH}{T^2}$で、$ΔG_{\rm m}=Δμ$であるから、
$\l{\ddp{}{T}\s{\f{Δμ_{\rm m}}{T}}}_{P}=-\f{ΔH_{\rm m}}{T^2}$となる。よって、
\begin{eqnarray}
\l{\ddp{}{T}\s{\f{Δμ_{i-蒸発}}{T}}}_P&=&-\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{T^2} \\
\l{\ddp{}{T}(-χ_{溶媒}R)}_P&=& -\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{T^2} \\
-χ_{溶媒}R&=&-\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{T^2}\d T \\
χ_{溶媒}&=& \f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{RT^2}\d T \\
これを純溶媒の沸点T_{純溶媒}から溶液の沸点T_{溶液}まで積分すると&、& \\
χ_{溶媒}&=& \int^{T_{溶液}}_{T_{純溶媒}}\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{RT^2}\d T \\
χ_{溶媒}&=& \f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{R}\l{-\f{1}{T}}^{T_{溶液}}_{T_{純溶媒}} \\
χ_{溶媒}&=& \f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{R}\s{-\f{1}{T_{溶液}}+\f{1}{T_{純溶媒}}} \\
χ_{溶媒}&=&-\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{R}\s{\f{1}{T_{溶液}}-\f{1}{T_{純溶媒}}}\\
χ_{溶媒}&=&\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{R}\s{\f{T_{溶液}-T_{純溶媒}}{T_{溶液}T_{純溶媒}}}\\
ここで、T_{溶媒}とT_{純溶媒}はあまり変わらない値なので&,&\\
T_{溶液}T_{純溶媒}&≈&T_{純溶媒}^2と近似できます。よって、\\
χ_{溶媒}&≈&\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{R}\s{\f{T_{溶液}-T_{純溶媒}}{T_{純溶媒}^2}} \\
ここで、純溶媒と溶液の沸点の差&&T_{溶液}-T_{純溶媒}をΔTとすると、\\
χ_{溶媒}&≈&\f{ΔH_{\rm m-蒸発}}{R}\s{\f{ΔT}{T_{純溶媒}^2} }\\
ΔT&≈&\s{\f{RT_{純溶媒}^2}{ΔH_{\rm m-蒸発}}}χ_{溶質} \\
\end{eqnarray}
となります。

$T_{純溶媒}$と$ΔH_{\rm m-蒸発}$は溶媒固有で決まる値であるので、この式は、「希薄溶液の場合、沸点の上昇度は溶質の種類によらず、そのモル分率$χ_{溶質}$に比例している」ということを示しています。

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