単分子反応のリンデマン機構

気相反応は多くの場合、一次反応が多いです。反応は二分子が衝突することによっておこるため、通常は二次反応でありますが、気相反応の場合は、濃度依存性を調べてみると、どうも一次反応が多いという事実があります。

この現象をうまく説明したのがリンデマンという人物で、そのメカニズムを彼の名前をとってリンデマン機構と呼ばれています。
$\newcommand\A{[{\rm A}]}\newcommand\As{[{\rm A^*}]}\newcommand\P{[{\rm P}]}$
例えば、
$\rm N_2O_5$の熱分解反応
$$\rm 2N_2O_5→4NO_2+O_2 $$
アゾメタンの熱分解反応
$$\rm CH_3-H=N-CH_3→C_2H_6+N_2 $$
シクロプロパンの異性化反応
$$\rm  cyclo-C_3H_6→CH_3CH=CH_2$$ これら3つの例はすべて分子同士の衝突で起こるのに(二分子過程なのに)
すべて一次反応で、$v=k\A$とあらわすことができます。

リンデマン機構

Lindemann-(Hinshelwood)mechanism
リンデマン-ヒンシェルウッド-機構とも呼ばれるこの機構は3つのステップであらわすことができます。

$$\b
Step1&&A+A→A^*+A (A^*は衝突して励起された分子、反応速度k_a)\\
Step2&&A^*+A→A+A(反応速度k’_a、A^*の失活反応) \\
Step3&&A^*→P(反応速度k_b、励起分子の分解) \\
\e $$まず、$Step1$で気体分子同士が衝突することで、片方の分子が励起されます(高いエネルギー状態になる)。(これを衝突励起といいます)(※振動の励起が重要だといわれています。)
$Step2$は$A^*$の失活反応です。
$Step3$は$P$の生成です。

ここで$A^*$は中間体とみなせます。そのため、$A^*$について定常状態近似を行ういます。
解いていきましょう。
$$\b
\f{\d \As}{\d t}&=&k_a\A^2-k’_a\As\A-k_b\As=0(定常状態近似) \\
\As&=&\f{k_a\A^2}{k_b+k’_a\A}\tag{1} \\
\f{\d \P}{\d t}&=&k_b\As \\
&=& \f{k_ak_b\A^2}{k_b+k’_a\A}\\
\e$$ となります。ここではまだ一次になっていません。
例えば、$Step3$が律速段階であったと仮定したらどうなるでしょうか。
そのときは$k’_a\As\A>>k_b\As$より、$k’_a\A>>k_b$となるため、分母の$k_b$を無視することができます。よって、
$$\f{\d \As}{\d t}=\f{k_ak_b\A^2}{k_b+k’_a\A}≈\f{k_ak_b}{k’_a}\A $$となり、一次反応とみなすことができます。

しかし、低圧ではどうなるでしょう。
$\A$が小さいということなので、$k’_a\A<<k_b$となります。
そのため、
$$\f{\d \P}{\d t}=\f{k_ak_b\A^2}{k_b+k’_a\A}≈k_a\A^2 $$となります。つまり、低圧では一次反応ではなく二次反応になります。
次は、この関連事項として、RRKモデルについて書きます。

RRKモデル(後にRRKMモデル)

RRK(M)モデルは(Rice,Ramsberger,Kassel,(Marcus) model)の略です。

最後のMarcusさんはノーベル賞をとっている人物です。
粒子の振動エネルギーが分子内の特定の結合に集中しているというモデルです。
分子が衝突すると、衝突に強さによっては分子が変形します。そのとき、結合が振動を始めます。そうすると、すぐにエネルギーが散らばっていきます。そのため、活性化エネルギーに達することができず、反応は起こりません。しかし、すごく低い確率で、ある結合にエネルギーが集中するときがあると考えることができます。(そして、反応が起こる。)

そこで、その特定の結合にエネルギーがあつまる確率を$P$の式として以下のようなものがあります。
$$\b
P&=&\s{1-\f{E^*}{E}}^{s-1} \\
S&:&エネルギーが分散できる対象となる振動モードの数\\
E^*&:&注目する結合を切るのに必要なエネルギー \\
\e 以下では、速度定数が$P$に仮定する、とします。
そうすると、
$$\b
k_b(E)&=&\s{1-\f{E^*}{E}}^{S-1}k_b \\
k_b&:&上記のリンデマン機構で用いた速度定数 \\
また&、&E≧E^*という条件も必要です \\
\e $$これをプロットしたものは以下のようになります。

縦軸を$\frac{k_b(E)}{k_b}$、横軸を$\frac{E^*}{E}$とするとき、グラフの概形は以下のようになります。

このグラフから分かることは、$S$が小さいほど、確率が高くなるということです。
$S$は分子内の結合の数におおよそ対応する数です。つまり、振動モードが少ない化学種のほうが励起されやすい傾向があるということがわかります。

逆にいうと、エネルギーが分散できる対象が多ければ大きいほど、反応速度が小さくなるということになります。

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