浸透圧

溶液と純溶液を半透膜で隔てたときに、溶媒分子は純溶媒側から溶液側に向かって移動していく。この現象を浸透という。(ほんとは溶質濃度が低いほうから高いほうへ移動する現象であるが、簡単のため、今のところはそういうことにしておく。いずれこの記事は修正するつもりだ)

このような現象が起こるのは、相平衡で導いた式、

$\mu_{i・liquid}=\mu^*_{i・liquid}+RT\ln χ_i$

から説明できる。なぜならば、上式より、溶液中の溶媒分子の化学ポテンシャルは、純溶媒中の化学ポテンシャルに比べて必ず低いことがわかる。このとき、平衡は必ず「化学ポテンシャルが高いほうから低いほうへ移動する」という性質があるため、溶媒分子が溶液の方へ移動する、と説明できる。

さて、浸透の半定性的な説明は説明はこれぐらいにしておいて、次は浸透圧を説明したい。

浸透という現象が起こったとき、溶媒分子が純溶媒側から溶液側へ移動するのは今説明した。これの現象が完全に進み切ると、純溶液側から溶媒分子が移動しきってしまう。これを途中で止めたいのだか、それにはどのような方法があるだろう。一つに溶液側に圧力をかけて、準溶液側からの溶媒の流入を止めるという方法がある。つまり、その濃度における溶媒粒子の流入を止めるために必要な溶液側に書ける必要がある圧力のことを浸透圧というのだ。

さて、本題の浸透圧である。これを定量的に知るためにはどうしたらいいだろうか?

これを、化学ポテンシャルの概念を使って導いていく。

浸透圧を$\Pi$とし、溶液側の溶媒分子のモル分率を$χ_{溶媒}$ とすると、化学ポテンシャルの釣り合いの条件は、

$\mu^*_{純溶媒}(P)=\mu_{溶液中の溶媒}(P+\Pi)\tag{1}$

この式の右辺は、相平衡で導いた

$\mu_{i・liquid}=\mu^*_{liquid}+RT\ln χ_j$

より、

$\mu_{溶液中の溶媒}(P+\Pi)=\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)+RT\ln χ_{溶媒}\tag{2}$

とも表される。

今出した式、$(1)と(2)$ をつなげると、

$\mu^*_{純溶媒}(P)=\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)+RT\ln χ_{溶媒}\tag{3}$

となる。

また、式$(3)$とは別に、温度が一定であると仮定し、化学ポテンシャルの圧力依存性でみた式(ここに式を入れる)を用いると、

$\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)=\mu^*_{純溶媒}(P)+\it^{P+\Pi}_{P}V_m dP$

が成り立つ。

この式の積分を、この圧力範囲の中で$V_m$ が一定であるとして計算すると、

$\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)=\mu^*_{純溶媒}(P)+V_m\Pi$

この式に$(3)$式を代入すると、

$\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)=\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)+RT\ln χ_{溶媒}+V_m\Pi$

このとき、両辺の

$\mu^*_{純溶媒}(P+\Pi)$

が消えるので、

$0=RT\ln χ_{溶媒}+V_m\Pi$

が成り立つ。

ここで、$χ_{溶媒}=1-χ_{溶質}$ より、

$0=RT\ln {1-χ_{溶質}}+V_m\Pi$

で、ここで$χ_{溶質}<<1$ であるとき、$\ln (1-χ_{溶質})≃-χ_{溶質}$ と近似できるので、

$0≈RT(-χ_溶質)+V_m\Pi$

この式を移項すると、

$RTχ_{溶質}=V_m\Pi\tag{4}$

が成り立つ。

いま、この導出においては希薄溶液を仮定している。そのため、$n_{溶媒}>>n_{溶質}$であるから、

$V=n_{溶媒}V_{m溶媒}+n_{溶質}V_{m溶質}≈n_{溶媒}V_{m溶媒}\tag{5}$

と,

$χ_{溶媒}=\f{n_{溶質}}{n_{溶媒}+n_{溶質}}≈\f{n_{溶質}}{n_{溶媒}}\tag{6}$

という2つの近似式が成り立つ。

$(5)$式を移項すると、

$V_m≈\f{V}{n_{溶媒}}\tag{5′}$

よって、$(5′)$式と$(6)$式を$(4)$式に代入すると、

$RT\f{n_{溶質}}{n_{溶媒}}≈\f{V}{n_{溶媒}}\Pi$

$⇔n_{溶質}RT≈V\Pi$

というが得られる。この式を移項し、体積モル濃度$[C_{溶質}]=\f{n_{溶質}}{V}$を用いると、

$\Pi≈\f{n_{溶質}}{V}RT≈[C_{溶質}]RT$

という近似式を得る。

これが、浸透圧を定量的に求めるための式となる。

さて、この式はどのように用いられるのだろうか?

実際的な使い方の一つには、巨大分子の分子量の決定、がある。

なぜならば、今回求めた近似式では溶液が希薄溶液でないといけない、というデメリットがある。

そのため、小さい分子では希薄溶液という条件を満たすために、溶かせる溶質の質量はごく小さなものになってしまい、計量に難が生じてくる。

その点、高分子では、ある程度大きい質量、溶質を溶かしたとしても希薄溶液とみなせるので、上記のデメリットを踏み倒せる点でこの式は有効である。

スポンサーリンク