溶液内の反応

単分子のリンデマン機構では気相中の反応を扱いましたが、気相中の分子は、ほぼ自由に動けると考えることができますが、溶液の場合では動きに制限が出てきます。また、溶質が溶媒に囲まれているため、溶質同士が出会うことが難しくなるということも考慮しなくてはなりません。このような反応の反応速度を考えます。
$\newcommand\AB{[{\rm AB}]}\newcommand\A{[{\rm A}]}\newcommand\B{[{\rm B}]}$
まず、定性的な気相と液相の比較です。
\begin{array}{ccc}
\hline
  & 気相&液相 \\ \hline
   密度& 低&高 \\
   分子間力& ないと近似できる&強い\\
  \hline
\end{array}
溶質と溶媒では分けて考えます。溶媒は特には反応には関与せず、溶質分子$A,B$の反応を考えます。
そうするとまず、以下のようなプロセスが可能性として考えられます。
$$\b
Step1& \ : \ &\rm A+B&→&\rm AB&(反応速度k_d) \\
Step2& \ : \ &\rm AB&→&\rm A+B &(反応速度k’_d)\\
Step3& \ : \ &\rm AB&→&\rm P &(反応速度k_a)\\
\e$$ この$\rm AB$は遭遇対(encounter pair)といいます。
とします。$k_d$の$d$はdifffusion(拡散)の略です。
$k_a$の$a$はactivated processの略です。
そして、その遭遇対は崩壊するか、うまく行けば生成物になります。
崩壊するにしても、生成物になるにしても、その原因は溶媒分子の熱運動によるものです。

このとき、それぞれのStepにおいて、以下のような反応が関係が成り立ちます。
$$\b
\rm ABの生成速度&=&k_d\A\B \\
\rm ABが崩壊して失われる速度&=&k’_d\AB \\
\rm ABが生成物になって失われる速度&=&k_a\AB \\
\e$$

このとき、下の二式において、溶媒分子の濃度の項がありません。溶媒分子が遭遇対に衝突して、熱エネルギーが受け渡されることによって反応がおこることを考えると、溶媒分子の濃度も関与してくる気がしますが、これは、溶媒分子が大過剰になるため、溶媒分子の濃度が一定になるためです(定数とみなせる)。

さて、この速度式を解いていきます。

$$\b
\f{\d \AB}{\d t}&=&k_d\A\B-k’_d\AB-k_a\AB=0(定常状態近似) \\
\AB&=&\f{k_d\A\B}{k_a+k’_d}\tag{1} \\
\f{\d [{\rm P}]}{\d t}&=&k_a\AB \\
&=&\f{k_ak_d}{k_a+k’_d}\A\B((1)式を代入) \tag{☆}\\
\e $$
気相反応と液相反応では、溶媒に取り込まれた溶質が拡散しながらたまたま出会うということです。

活性化律速と拡散律速

①遭遇対$\rm ABの反応速度>>分解速度$の場合(k_a>>k’_d)

この場合では、$(☆)$式より、
$$\f{\d [{\rm P}]}{\d t}=k_d\A\B $$つまり、反応速度は反応物の拡散速度で決まります。
それを「拡散律速極限」(diffusion control limit)といいます。

一方、
②遭遇対$\rm AB$が反応を起こすのに、十分なエネルギーを蓄積するのが、分解に比べて遥かに遅い場合
つまり、①と逆の場合で、$k_a<<k’_d$となる場合は、$(☆)$式より、
$$\f{\d [{\rm P}]}{\d t}=\f{k_ak_d}{k’_d}\A\B $$となります。
これを「活性化律速極限」(activation control limit)といいます。
反応速度は遭遇対にエネルギーがたまる速度によって決まるということです。

拡散と粘性率

拡散速度は溶媒の粘性と関係があります。
$$\b
k_d&=&\f{8RT}{3η} \\
η&:&粘性率 \\
\e$$ 粘性率$η$が大きいほど拡散速度$k_d$が小さいです。すなわち、拡散律速の反応が遅いと言えます。

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