量子論の5つの仮定

量子論は5つの仮定があります。

仮定1
系の状態は波動関数$\Psi$が代表する。$\Psi^*\Psi \d τ$という量は微小体積$\d \tau$中に粒子を見出す確率を与える。$\Psi$は連続でどこでも有限値を取り、$±∞$ではゼロになる。

仮定2
系の観測可能な性質には、それに対応する線形エルミート演算子が存在する。線形エルミート演算子の固有値は実数である

いいかえると、量子論で使う演算子はエルミート演算子だけです。
つまり、演算子というのは数学的処理のことですから、無数にありますが、量子論ではエルミート演算子というものだけに制限されます。

エルミート演算子の定義は
$$\b
\int \Psi_i^*α\Psi_j \d \tau&=&\int \Psi_j α^* \Psi_i^* \d \tau\\
\e $$が成り立つような演算子$α$をエルミート演算子といいます。

関数$\Psi$につく$^*$は$i$を$-$にするだけでいいですが、それは演算子においても同じで、$i$を$-$にするだけでいいです.

例えば、$\hat{α}=\f{\hbar}{i}\f{\d }{\d x}$とすると、$\hat{α}^*=\f{\hbar}{-i}\f{\d }{\d x}$です。

また、注意なのは$\Psi_i$と$\Psi_j$が入れ替わっています。

なぜこのエルミート演算子なのかというと、エルミート演算子だと、固有値が実数になるからです。物理量は絶対に虚数にならないからです。(仮設2の後半)

これは証明されています。以下で、エルミート演算子の固有値が実数になることを証明します。
$\newcommand\a{{\hat{α}}}$

出発点を、以下の式とします。$a_i$を定数とします。
$$\b
\a\Psi_i&=&a_i\Psi_i (まだa_iが実数であるとは限りません。)\tag{1}\\
&&(1)の左辺右辺に複素共役をつけます。 \\
\a^*\Psi_i^*&=&a_i^*\Psi_i^*\tag{2} \\
&&(1)式の左から\Psi_i ^*をかけます\\
\Psi_i ^*\a\Psi_i&=& \Psi_i ^*a_i\Psi_i\\
&&そして、定数が入っているので、a_iは外に出せます。\\
&&\aは演算子なので外に出せません。\\
\Psi_i ^*\a\Psi_i&=& a_i\Psi_i ^*\Psi_i  \tag{3}\\
&&(2)式に左から\Psi_iを掛けます  \\
\Psi\a^*\Psi_i^*&=&\Psi a_i^*\Psi_i^*  \\
&&そして、定数が入っているので、a_iは外に出せます。\\
&&\aは演算子なので外に出せません。\\
\Psi\a^*\Psi_i^*&=& a_i^* \Psi\Psi_i^*\tag{4} \\
&& (3)式を全空間で積分します。 \\
\int \Psi_i ^*\a\Psi_i \d \tau&=& \int a_i\Psi_i ^*\Psi_i\d \tau  \tag{5}  \\
&& (4)式を全空間で積分します。 \\
\int \Psi\a^*\Psi_i^*\d \tau&=& \int a_i^* \Psi\Psi_i^*\d \tau \tag{6} \\
&&この時、\aがエルミートならば、定義より、 \\
&&(5)式の左辺と(6)式の左辺は等しいので\\
&&両式の右辺も等しくなります。  \\
\int a_i\Psi_i ^*\Psi_i\d \tau&=& \int a_i^* \Psi_i\Psi_i^*\d \tau \\
よって、\Psi_i ^*\Psi_i&=& \Psi_i\Psi_i^*なので、 \\
a_i&=&a_i^*  
\e $$よって、定数$a_i$は実数であることが証明された。

エルミート演算子に「線形」がついているのは、ばらしてもいいという性質が加わるからです。

$$\b
\hat{A}(f(x)+g(x)・・・)&=&\hat{A}f(x)+ \hat{A}g(x)\\
\hat{A}af(x)&=&a\hat{A}f(x) \\
\e $$
それでは、下で具体例を挙げます。
次の5つの演算子(エルミートとは限らない)のうち、どれが線形でどれが線形ではないか?
$$\b
\hat{A}f(x)&=&f(x)^2 \\
\hat{A}f(x)&=&[f(x)]^{-1}  \\
\hat{A}f(x)&=& f(0) \\
\hat{A}f(x)&=& \ln f(x) \\
\hat{A}&=&\f{\d }{\d x} \\
\e $$
線形なのは、
$$\b
\hat{A}f(x)&=& f(0) \\
\hat{A}&=&\f{\d }{\d x} \\
\e $$のみです。

ただし、$\hat{A}=\f{\d }{\d x}$は「線形」ではありますが、エルミートではありません。
それを以下で述べます、
$\hat{F}=\f{\d }{\d x},\hat{P}=-\f{\hbar}{i}\f{\d }{\d x}$として、$\hat{F}$はエルミートではなく、$\hat{G}$はエルミートであるという確認をします。
$$\b
\int f(x)^*\hat{F}g(x)\d x&=& \int f(x)^* \f{\d }{\d x} g(x)\d \tau \\
&&  部分積分すると、  \\
&=&\underline{[g(x)f(x)^*]^{∞}_{-∞}}-\int g(x)\f{\d }{\d x}f(x)^* \d x \\
&&  下線部は波動関数の性質により0になります\\
&& (波動関数は無限極限で0に収束するため) \\
&=&-\int g(x)\s{\f{\d }{\d x}}^*f(x)^* \d \tau \\
\e$$ となるため、やはり、$\hat{F}$はエルミート演算子ではありません。(最後の式の積分の前に「ー」がつくためです。これがなかったらエルミートです)
次は、$\hat{P}$がエルミートであることを確認します。
$$\b
\int f(x)^*\hat{F}g(x)\d x&=& \int f(x)^* \s{-\f{\hbar}{i}\f{\d }{\d x}} g(x)\d \tau \\
&&  部分積分すると、  \\
&=&\underline{[g(x)f(x)^*]^{∞}_{-∞}}-\int g(x)\s{-\f{\hbar}{i}\f{\d }{\d x}}f(x)^* \d x \\
&&  下線部は波動関数の性質により0になります\\
&& (波動関数は無限極限で0に収束するため) \\
&=&-\int g(x)\s{-\s{-\f{\hbar}{i}\f{\d }{\d x}}}^*f(x)^* \d \tau \\
&=& \int g(x)\s{-\f{\hbar}{i}\f{\d }{\d x}}^*f(x)^* \d \tau \\
\e$$ となり、エルミートであることが確認できた。

仮設3
$α\Psi_s=a_s\Psi_s$なら、$α$に対応する物理量を測定したときに常に$a_s$である。

このとき、$α$は確定値なので、変動しません、期待値(平均値)とは全く違います。

仮設4
演算子$α$とその演算子の固有関数でない関数$\Psi$に対しては、$α$に対応する物理量を測定した、その期待値は
$$<α>_{期待値}=\f{\int \Psi^*\a \Psi \d \tau}{\int \Psi^*\Psi \d \tau}$$ となる。

仮設5
時間を含むベクトル$\Psi(q,t)$は
$$i\s{\f{h}{2\pi}}\ddp{\Psi}{t}=H\Psi $$で与えられる。

$H$はハミルトニアンです。

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