1次元の箱型ポテンシャル

1次元の箱型ポテンシャルのモデルは直鎖の共役炭化水素中のπ電子におおよそ当てはめることのできるモデルです。
時間に依存しないシュレディンガー方程式は以下のとおりでした。
$$\f{\d^2 ψ}{\d x^2}+\f{8π^2m}{h^2}[E-V(x)]ψ(x)=0 $$共役系のπ電子は自由粒子とみなします。自由粒子という用語は粒子がポテンシャルを感じていない、つまり$V(x)=0$であるという意味です。これを時間に依存しないシュレディンガー方程式に代入します。
$$\f{\d^2 ψ}{\d x^2}+\f{8π^2mE}{h^2}ψ(x)=0 $$まず、この方程式を解きます。この方程式は以下の微分方程式
$$\f{\d^2 y}{\d x^2}+k^2y(x)=0\tag{☆} $$において、$y=ψ(x),k^2=\f{8π^2mE}{h^2}$としたときと同じ式です。
この微分方程式を解きます。

(以下の解き方は数学的にはあまり価値がないかもしれません。ご了承ください)

経験によれば、右辺が0で、定係数の線形微分方程式の解はいつも$y(x)=e^{αx}$の形をとります。ここで、αは別に決めるべき定数です。したがって、この$(☆)$式において、$y(x)=e^{αx}$と置きます。
$$\b
\f{\d^2 e^{αx}}{\d x^2}+k^2e^{αx}&=& 0\\
(α^2+k^2)e^{αx}&=&0 \\
\e$$ これから、$(α^2+k^2)$または$e^{αx}$が0にならなければいけない。$e^{αx}=0$の場合は$x→-∞$という無意味な解なので、$α^2+k^2=0$とならなければいけません。したがって、$$α=±ik$$となります。つまり少なくとも
$$y(x)=e^{±ikx}$$の2つは$(☆)$式の解であることが分かります。
また、これより、
$$y(x)=c_1e^{ikx}+c_2e^{-ikx}\\
(c_1,c_2は積分定数) $$であることは数学的に証明することができます。(ここでは証明はしませんが、以下で実際に代入して、確認します。)

では、ここでは簡単な確認として、$(☆)$式に一般解$y(x)=c_1e^{ikx}+c_2e^{-ikx}$を代入してみましょう。
$$\b
\f{\d^2 y}{\d x^2}+k^2y(x)&=&0 \\
\f{\d^2 (c_1e^{ikx}+c_2e^{-ikx})}{\d x^2}+k^2(c_1e^{ikx}+c_2e^{-ikx})&=&0 \\
-c_1k^2e^{ikx}-c_2k^2e^{-ikx}+c_1k^2e^{ikx}+c_2k^2e^{-ikx}&=& 0\\
(-c_1k^2+c_1k^2)e^{ikx}+(-c_2k^2+c_2k^2)e^{-ikx}&=&0 \\
0&=&0 \\
\e $$と確かに成り立つことを確認することができました。
つまり、ここまでのまとめとしては、
$$\f{\d^2 y}{\d x^2}+k^2y(x)=0\tag{☆} $$の一般解は
$$y(x)=c_1e^{ikx}+c_2e^{-ikx}$$ ということです。
さて、この一般解はオイラーの公式$e^{±ikx}=\cos{kx}±i\sin{kx}$より
$$\b
y(x)&=&c_1e^{ikx}+c_2e^{-ikx} \\
&=& c_1(\cos{kx}+i\sin{kx})+c_2(\cos{kx}-i\sin{kx})\\
&=& (c_1+c_2)\cos{kx}+(ic_1-ic_2)\sin{kx}\\
&=&A\cos{kx}+B\sin{kx} \\
&&(A=c_1+c_2,B=ic_1-ic_2と置きました。\\
&&A,Bは積分定数)
\e $$
よって、シュレディンガー方程式
$$\f{\d^2 ψ}{\d x^2}+\f{8π^2mE}{h^2}ψ(x)=0$$の一般解は
$$y(x)=A\cos{kx}+B\sin{kx}, \ (k=\f{2π\sqrt{2mE}}{h}とする。) $$となることが分かります。

まず、境界条件は$y(0)=y(a)=0$でした。
まず、$y(0)=0$より、$\cos{(0)}=l $,  $\sin{(0)}=0$だから、ただちに$A=0$が示されます。

次に二番目の境界条件$y(a)=0$の境界条件から、
$$ψ(a)=B\sin{ka}=0$$ が得られます。$B=0$とすると、すべての$x$に対して$ψ(x)=0$という無意味な、物理的にも興味のない解を与えるので、$B=0$の選択肢は除外します。残る選択肢は、
$$ka=nπ, \ (n=1,2,…) $$です。よって、$k^2=\f{8π^2mE}{h^2}$の関係式より、
$$E_n=\f{h^2n^2}{8ma^2}, \ (n=1,2,…) $$が成り立ちます。
よって、エネルギーがわかれば、電子の動くことのできる長さ(=有効分子長)がわかるということになります。

一次元箱型ポテンシャルに関する例題

例題1
一次元の箱の中に1個の粒子が入っている。
a)この粒子のSchrödingerの波動方程式を書き、境界条件を示せ。
b)この波動方程式を解き、波動関数及びエネルギーの固有値を求めよ
c)粒子が第一励起状態にあるとき、箱の中の中点を中心とする単位長さで粒子を見つける確率はいくらか、また、この粒子の運動量の期待値はいくらか答えよ。

解答
この粒子の質量を$m$,箱の長さを$a$とし、粒子の位置を$x$で表す。また、$x≦0$及び$x\geq a$ではポテンシャルエネルギー$V=∞$、$0<x<a$では$V=0$である。

a)箱の中では、ポテンシャルエネルギー$V=0$であるから、この粒子のSchrödinger方程式は
$$\f{\d^2 ψ}{\d x^2}=-\s{\f{8π^2m}{h^2}E\psi}\tag{1} $$となる。ここで、$V=∞$の領域を考えると、この式は
 $$\f{\d^2 ψ}{\d x^2}=-\s{\f{8π^2m}{h^2}(E-V)\psi}=+∞\psi\tag{☆} $$となる。$\psi$がもしも箱の端($x=0,a$)において、0ではなく、有限の値をもっているとすると、$\psi$は連続でなければならないという条件から、$x$が0よりもわずかに小さいところと$x$が$a$よりもわずかに大きいところにおいても、$\psi$は有限の値を取らなくてはならない。したがって、式$(☆)$式において、有限の$\psi$を代入すると、$\f{\d^2 \psi}{\d x^2}=∞$となり、それはつまり、$\f{\d \psi}{\d x}$も$\psi$も$∞$であることを示す。だがしかし、これは$\psi$が有限でなくてはならないという条件に反する。したがって、$x\leq 0$および$x\geq a$の領域では$\psi=0$でなくてはならない。すなわち、境界条件は
$$\psi(0)=0,\psi(a)=0 $$である。

(b)Schrödinger方程式(式$(1)$)の一般解は$A$,$B$を定数として
$$\b
\psi&=&A\sin kx+B\cos kx \\
k^2&=&\f{8π^2mE}{h^2} \\
\e $$となるが、境界条件$\psi(0)=0$が成立するためには、$B=0$でなければならない。また、$\psi(a)=0$ではためには、
$$ka=nπ(n=1,2,3・・・)$$ でなければならない。したがって、波動関数は
$$\psi_n=A\sin nπ\f ak $$となる。定数$A$は規格化条件$\int_{全区間}\psi^*\psi \d  τ=1$より、
$$\b
A^2\int^{a}_0 \sin^2 nπ\f x a \d x&=&1 \\
\f{A^2}{2}\int^{a}_0 \s{1- \cos 2nπ\f x a} \d x&=&1 \\
\f{A^2}{2}[x-\f{a}{2nx}\sin 2nπ\f x a]_0^a&=&1 \\
\f{A^2}{2}×a&=&1 \\
A&=&\sqrt{\f{2}{a}} \\
\e $$であるから、
$$\psi_n=\sqrt{\f{2}{a}}\sin nπ\f x a$$ となり、また、
$$\b
k^2&=&\f{8π^2mE}{h^2} \\
ka&=nπ&
\e$$ の二式より、固有値は
$$E_n=\f{n^2h^2}{8ma^2} $$となる。

c)第一励起状態であるから、$n=2$である。箱の中点の単位長さで粒子を見るける確率を$P$とすると、

$$\b
P&=&\int^{\frac{a+1}{2}}_{\frac{a-1}{2}}\psi^*\psi\d x \\
&=& \f 2 a\int^{\frac{a+1}{2}}_{\frac{a-1}{2}}\sin^2 2π\f x a \d x\\
&=&\f 1 a\int^{\frac{a+1}{2}}_{\frac{a-1}{2}} \s{1-\cos 4π\f x a}\d x \\
&=& \f 1a-\f{1}{4π}\s{\sin \f{2π(a+1)}{a}-\sin \f{2π(a-1)}{a}}\\
&=& \f 1 a -\f{1}{2π}\sin \f{2π}{a}\s{\because \sin A-\sin B=\s{2\cos\f{(A+B)}2}\s{\sin \f{(A-B)}{2}}}\\
\e$$ 量子力学では、運動量$p_x$に対応する演算子は$\f{\hbar}{i}\f{\partial}{\partial x}$であるから、運動量の期待値$\bar{p}$は
$$\b
\bar{p}&=&\f{\hbar}{i}\int \psi^*\f{\d}{\d x}\psi \d x \\
&=&\f {\hbar} i\f{2}{a}\int^a_0 \s{\sin nπ\f{x}{a}}\s{\f{nπ}{a}}\cos nπ\f x a \d x \\
&=&\f{2nπ\hbar}{ia^2}[\f12 \sin^2 nπ\f x a]^a_0 \\
&=& 0\\
\e $$となる。

例題2
a)長さ$a$の一次元箱型ポテンシャル場($x\geq a,x\leq0$で$V(x)=∞$,$0<x<a$で$V(x)=0$)内を運動している質量$m$の粒子の固有関数$\psi(x)$とエネルギー固有値$E$を、波動方程式を用いてもとめよ。但し、規格化の定数は計算しなくてもよい。
$$\s{\f{\d^2 \psi}{\d x^2}}+\s{\f{8π^2m}{h^2}}\s{E-V(x)}\psi=0 $$
b)上の結果を用いて次の問に答えよ。
i)エネルギー固有値と節(node)の数との間にはどのような関係があるか。
ii)鎖状ポリエチレン$\rm H-(CH=CH-)_k-H$の$π$電子を自由電子模型で取扱い、最低励起エネルギーと鎖長との関係を調べよ。ただし、$a$は結合に沿って測った両端の炭素の原子間の長さにとり、炭素ー炭素結合の長さはすべて等しいものとする。

解答
a)波動方程式
$$\s{\f{\d^2 \psi}{\d x^2}}+\s{\f{8π^2m}{h^2}}\s{E-V(x)}\psi=0 $$の一般解は$A$、$B$を定数として、
$$\b
\psi(x)&=&A\sin kx +B\cos kx  \\
k^2&=&\f{8π^2mE}{h^2} \\
\e $$である。境界条件$\psi(0)=0$より、直ちに$B=0$であることがわかる。
もう一つの境界条件$\psi(a)=0$からは、$ka=nπ(n=1,2,3・・・)$という関係式が得られる。
よって、$k=\f{nπ}{a}$となるため、固有関数は
$$\psi_n(x)=A\sin \f{nπ}{a}x$$となり、
$$\b
k^2&=& \f{8π^2mE}{h^2}\\
\s{\f{nπ}{a}}^2&=& \f{8π^2mE}{h^2}\\
E_n&=&\s{\f{nπ}{a}}^2\f{h^2}{8π^2m} \\
&=&\f{n^2h^2}{8ma^2} \\
\e $$より、エネルギー固有値は$E_n=\f{n^2h^2}{8ma^2} $となる。

b)
$n=1~3$の波動関数は以下のようになる。

この図からも明らかなように、波動関数の節の数は$n-1$個であり、節の数が多いほどエネルギーは高くなる。

ii)一つの二重結合ごとに$π$電子は二個あるから、このポリエチレン$\rm H-(CH=CH-)_k-H$の$π$電子の総数は$2k$個である。一つのエネルギー準位にはスピンの方向の逆向きの電子が一対しか入れないから、エネルギーの一番低い基底状態は$k$番目のエネルギー準位までが埋まった状態である。

したがって、最低の励起エネルギー$E$は$k$番目の準位にいる電子1個を$k+1$番目の準位に励起するために必要なエネルギーに等しい。

したがって最低励起エネルギー$E$は
$$\b
E&=&E_{k+1}-E_k \\
&=&\s{(k+1)^2-k^2}\f{h^2}{8m_ea^2} \\
&=&(2k+1) \f{h^2}{8m_ea^2}\\
\e $$となる。

例題3

半径$r$の円環の中で自由に動いている電子の波動関数は
$$\psi=Ae^{ik\phi} $$で与えられる。次の問に答えよ
1)$k$はどのような値にならねばならないか
2)規格化因子$A$を計算せよ
3)この波動関数について、角運動量とエネルギーの固有値を求めよ。
4)この円環の中に電子が3個入っているとすると、どういう電子状態になるか。

解答
1)波動関数は一価関数でなくてはならないから、
$$e^{ik\phi}=e^{ik(\phi + 2π)} $$そのためには、
$$\b
e^{ik\phi}&=&e^{ik(\phi + 2π)} \\
e^{ik\phi}&=&e^{ik\phi}e^{ik×2\pi} \\
e^{ik\phi}&=&e^{ik\phi}×(\cos 2πk+i\sin 2πk) \\
1&=&\cos 2πk+i\sin 2πk \\
\cos 2πk+i\sin 2πk&=&1 \\
\e $$これを満たすためには、$k$が整数($k=0,±1,±2,・・・$)でなくてはならない。

2)規格化条件$\int_{全区間}\psi^*\psi \d τ=1$より、
$$\b
A^2\int^{2\pi}_{0} e^{-ik\phi}e^{ik\phi}\d \phi&=&1 \\
A^2 ×2π&=&1 \\
A&=&\f{1}{\sqrt{2π}} \\
\e $$
3)角運動量$p_{\phi}$に対応する演算子(オペレータ)は$\f{h}{2πi}\f{\d }{\d \phi}$であるから,その固有値は、
$$p_{\phi}=\int^{2\pi}_{0}\psi^*\f{h}{2\pi i}\f{\d }{\d \phi}\psi \d \phi $$で与えられる。
よって、
$$\b
p_{\phi}&=&\f{1}{2π}\int^{2\pi}_{0}e^{-ik\phi}\f{h}{2\pi i}\f{\d }{\d \phi}e^{ik\phi} \d \phi \\
&=& \f{1}{2π}\f{hk}{2\pi}\int^{2\pi}_{0}e^{-ik\phi}e^{ik\phi} \d \phi \\
&=&\f{hk}{4\pi}×2π \\
&=& \f{hk}{2π}\\
\e $$エネルギーに対する演算子(オペレータ)はハミルトニアンであり、
$$H=-\f{h^2}{8\pi^2mr^2}\f{\d^2}{\d \phi^2}+V $$で与えれられるが、円環の中で電子は自由に動けるから$V=0$である。したがって、その固有値は、
$$\b
E_k&=&\int^{2\pi}_0\psi^*H\psi \d \phi \\
&=& -\f{h^2}{8\pi^2m_er^2}\f{1}{2π}\int^{2\pi}_0 e^{-ik\phi}\f{\d^2}{\d \phi^2}e^{ik\phi}\d \phi\\
&=& -\f{h^2}{8\pi^2m_er^2}\f{1}{2π}\int^{2\pi}_0 (-k^2)\d \phi\\
&=& -\f{h^2}{8\pi^2m_er^2}\f{1}{2π}(-k^2×2\pi)\\
&=& \f{k^2h^2}{8\pi^2m_er^2}\\
\e $$となる。

4)
この系のエネルギー準位は以下のようになる。
ここで、$k\geq 1$の準位は、波動関数$\f{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ik\phi}$および$\f{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-ik\phi}$に対して二重に縮重している。各準位にはスピンの方向が異なる電子が一対しか入れないから、3個の電子は以下に示すように準位を占める。

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