Latimer図(ラチマー図)

Latimer図(ラチマー図)とは、化学種が酸化状態の高い方から順番に左から右側へと記されており、それらを結ぶ矢印の上に標準電極電位$E\stst$の値がV単位で書かれているものです。
たとえば、pH=0の水溶液中における$\rm Mn$のLatimer図は以下のようになります。


上のLatimer図には、$\rm Mn^{+7}$から$\rm Mn^{+4}$への反応の$E\stst$などは書かれていませんが、これは計算から求めることができます。ただし、以下を見ればわかるように、単純に$E\stst$同士を足して計算できるものではないです。それよりはもっと複雑な手順です。

それを以下の例題で確認します。

例題


上の図はpH=0の水溶液中における$\rm Mn$のLatimer図である。このLatimer図を用いて、以下の問題に答えよ

(1)pH=0の水溶液中における$\rm Mn$単体の安定性について、ギブズの自由エネルギー変化に基づいて説明せよ。

[解答]
上のLatimer図から
$$\rm Mn^{2+}+2e^-\xrightarrow[ ]{ }Mn$$の反応の$E\stst$は$-1.18$と負なので、$ΔG=-nE\stst$より、この反応のギブズの自由エネルギーは正になる。よって、以上の反応は自発的に起こらないため、pH=0の水溶液中では、$\rm Mn$単体は安定して存在しない。

[解説]
pH=0の水溶液中では、$\rm Mn$は単体$\rm Mn$の形で存在するか?あるいはイオン$\rm Mn^{2+}$で存在するかということが問われています。

上のLatimer図では、$\rm Mn^{2+}\xrightarrow[ ]{-1.18 }Mn$となっています。これは、
$$\rm Mn^{2+}+2e^-\xrightarrow[ ]{ }Mn \ \  \ \ E\stst=-1.18[{\rm V}]$$
であるということを示しています。
よって、ギブズの自由エネルギーと標準電極電位の間には、$ΔG\stst({\rm eV})=-nE\stst({\rm V})$という関係が成り立ちますので、この半反応式の$ΔG\stst$の符号が正であることがわかります。ギブズの自由エネルギーは負である場合に反応が自発的に進行しますので、逆に、正のときである、この反応は自発的に進行しないことがわかります。つまり、pH=0の水溶液中では$\rm Mn^{2+}$の形で存在します。

(2)上に示した化学種の中でpH=0の水溶液中で最も安定な化学種はどれか。

[解答]
$\rm Mn^{2+}$

[解説]
$\rm Mn^{2+}$より酸化数の高い化学種からの標準電極電位はすべて正なので、$\rm Mn^{2+}$が最も安定です。また、前問の通り、$\rm Mn$よりも安定です。

(3)$\rm Mn^{3+}$が$\rm Mn^{2+}$と$\rm MnO_2$に不均一化する反応式を示せ。

[解答]
不均一化反応の化学式は
$$\rm 2Mn^{3+}+2H_2O\xrightarrow[ ]{ }Mn^{2+}+MnO_2+4H^+$$

[解説]
まず、不均一化反応を書く必要があります。まず、$\rm Mn^{3+}$が$\rm Mn^{2+}$に還元される半反応と、$\rm MnO_2$が$\rm Mn^{3+}$に還元される半反応を書きます。
○$\rm Mn^{3+}$が$\rm Mn^{2+}$に還元される半反応
$$\rm Mn^{3+}+e^-\xrightarrow[ ]{ }Mn^{2+}$$
○$\rm MnO_2$が$\rm Mn^{3+}$に還元される半反応

\begin{eqnarray}
\rm MnO_2&\xrightarrow[ ]{ }&\rm Mn^{3+} &まず反応物を左、生成物を右に書く\\
\rm MnO_2&\xrightarrow[ ]{ }&\rm Mn^{3+} +2H_2O&\rm 次にH_2Oで酸素の数をあわせる\\
\rm MnO_2+4H^+&\xrightarrow[ ]{ }&\rm Mn^{3+} +2H_2O&\rm 次に、水素の数をH^+で合わせる\\
\rm MnO_2+4H^++e^-&\xrightarrow[ ]{ }&\rm Mn^{3+} +2H_2O &\rm 最後にe^-で電荷をあわせる\\
\end{eqnarray}

(webの仕様上ここだけ黒です)
半反応式の書き方は、①反応物を左、生成物を右に書く。②酸素の数を水で合わせる。③水素の数を水素イオンで合わせる。④電荷を電子で合わせる。の順番で書けます。(水→水素イオン→電子の順番で小さくしていくのがポイント)

$\rm Mn^{3+}$が$\rm Mn^{2+}$に還元される半反応から、$\rm MnO_2$が$\rm Mn^{3+}$に還元される半反応を引くと不均一化反応の反応式が書けます。
$$\rm 2Mn^{3+}+2H_2O→Mn^{2+}+MnO_2+4H^+$$

さて、これで不均一化反応の反応式が書けました。

(4)(3)で求めた不均一化反応が自発的に起こるか否かを判定せよ。

[解答]
この反応の$ΔG\stst=-0.66[{eV}]$となり、負なので、この不均一化反応は自発的に起こる。

[解説]
○$\rm Mn^{3+}$が$\rm Mn^{2+}$に還元される半反応
$$\rm Mn^{3+}+e^-\xrightarrow[ ]{ }Mn^{2+}$$
の$E\stst=+1.56[\rm {V}]$なので、$ΔG\stst=-nE\stst$($n$はその反応でやり取りされた電子の物質量)より、この反応のギブズエネルギーは$ΔG\stst=-1×(+1.56)=-1.56[\rm {eV}]$となります。

○$\rm MnO_2$が$\rm Mn^{3+}$に還元される半反応
$$\rm MnO_2+4H^++e^-\xrightarrow[ ]{ } Mn^{3+} +2H_2O$$
の$E\stst=+0.90[\rm {V}]$なので、$ΔG\stst=-nE\stst$($n$はその反応でやり取りされた電子の物質量)より、この反応のギブズエネルギーは$ΔG\stst=-1×(+0.90)=-0.90[\rm {eV}]$となります。

よって、不均一化反応を求める際、○$\rm Mn^{3+}$が$\rm Mn^{2+}$に還元される半反応から、○$\rm MnO_2$が$\rm Mn^{3+}$に還元される半反応を引いて作ったので、ギブズエネルギーもその順番で引くと、不均一化反応のギブズエネルギーは
$$ΔG\stst=-1.56-(-0.90)=-0.66[\rm {eV}]$$
となり、負になるため、この反応は自発的に起こることがわかります。

(5)(3)で求めた不均一化反応の標準起電力を求めよ。

[解答]
0.66V

[解説]
不均一化反応
$$\rm 2Mn^{3+}+2H_2O\xrightarrow[ ]{ }Mn^{2+}+MnO_2+4H^+$$
では、やりとりされている電子の物質量は1です。そのため、
$ΔG\stst=-nE\stst⇔E\stst=-\f{ΔG\stst}{n}$より、この不均一化反応の標準起電力は
$$E\stst=\f{-0.66}{1}=0.66[{\rm V}]$$となります。

(5)(6)に当てはまる数字を答えよ。

[解答]
+1.69V

[解説]
この問題は、$\rm MnO_4^-$が、$\rm MnO_2$に還元される反応の標準電極電位(先程から、この文章に標準電極電位と標準起電力の2つの単語が混在していますが、使い分けがなされています。前者は半反応式に対する$E\stst$,後者は反応式に対する$E\stst$を指します)を$E\stst$を求める問題です。そのため、流れとしては、(3)~(5)の流れと同じ問題です。しかし、反応式自体を書かなくても良いため、それぞれの半反応式で受け渡しされる電子の物質量にだけ注目すれば良いことになります。

$\rm MnO_4^-$酸化数は$+7$、$\rm HMnO_4^-$の酸化数は$+6$、$\rm MnO_2$の酸化数は$+4$、なので、$+7$から$+4$への還元、つまり、3電子移動の還元になることがわかります。

$\rm MnO_4^-\xrightarrow[ ]{+0.90 }\rm HMnO_4^-$では1電子移動なので、$ΔG\stst=-1×(+0.90)=-0.90[{\rm eV}]$
$\rm HMnO_4^-\xrightarrow[ ]{+2.09}\rm MnO_2$では2電子移動なので、$ΔG\stst=-1×(+2.09)=-4.18[{\rm eV}]$
となります。よって、$\rm MnO_4^-\xrightarrow[ ]{}\rm MnO_2$は上の2つの半反応式を足すことでできるので、ギブズエネルギーもその順番で足すと、(不均一化反応のときとは違い、引くのではなく、足していることに注意です。)不均一化反応のギブズエネルギーは
$ΔG\stst=-0.90+(-4.18)=-5.08[{\rm eV}]$
よって、求める反応では3電子が移動しているので、
$E\stst=-\f{ΔG\stst}{n}=-\f{-5.08}{3}=+1.69[{\rm V}]$
となります。

(7)標準状態において、$\rm MnO_4^-$は水を酸化したとき、$\rm HMnO_4^-$にならないことを示せ。また、$\rm MnO_4$になる可能性はあるか?答えよただし$$\rm \f12O_2+2H^++2e^-→H_2O$$の標準電極電位は$E\stst=+1.23[{\rm V}]$とする。

[解答]
$\rm MnO_4^-+\f12H_2O→HMnO_4^-+\f14O_2$の$ΔG\stst=+0.33[{\rm eV}]$となるため、自発的に進行しないが、
$\rm MnO_4^-+H^+→MnO_2+\f12H_2O+\f43O_2$の$ΔG\stst=-1.39[{\rm eV}]$となるため、自発的に進行する。つまり、水を酸化した際には、$\rm MnO_2$になる可能性はある。

[解説]
反応式を作り、(3)~(4)の流れと同様に、ギブズエネルギーを求めます。作業量の都合上、ここの解説は割愛させていただきます。

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