アクア酸とは、中心金属イオン$\rm M^{n+}$に配位した水分子に酸性プロトンが存在するとき、そのアクア錯体のことをアクア酸といいます。アクア酸の具体例としては以下の$\rm [Al(OH_2)_6]^{3+}$などが挙げられます。
これは、
$$\rm [Al(OH_2)_6]^{3+}+H_2O⇄[Al(OH)(OH_2)_5]^{2+}+H_3O^{+}$$
という反応を起こします。つまり、配位子である水のプロトンが脱離し、ブレンステッド酸として機能します。
これは、単純に配位水のプロトンが脱離して生じる共役塩基の負電荷が中心金属イオン正電荷により安定化されるためです。
これをイオンモデルと呼ぶとすると、このイオンモデルである程度アクア酸の強度を合理的に説明することができます。
このモデルでは中心金属イオンの正電荷数が増えるほど、また、中心金属イオンのイオン半径が小さくなればなるほどアクア酸の酸性度が増加することになります。
このイオンモデルはイオン性の強い(特にsブロックの元素)では極めてよく当てはまります。
しかし、このdブロックの前の方の金属(FeやCr)が中心金属イオンである場合には、イオンモデルから少しずれが生じてきます。具体的には、イオンモデルから予想される酸性度よりもはるかに高い酸性度を示します。つまり、離れていくプロトンと金属イオンとの反発力がイオンモデルの予測よりも強いということです。この反発力の増加はカチオンの正電荷が中心イオン上にだけ局在しているのではなく、配位子上に非局在化している結果、離れていくプロトンにより近いところに正電荷があると考えると合理的に説明ができます。つまり言い換えると、酸素と金属が共有結合性のある結合を形成しているということです。
さらに、dブロックの後ろの方の金属($\rm Cu^{2+}$)やpブロックの金属($\rm Sn^{2+}$)の場合はさらに酸性度が高くなります。金属のd軌道と配位子の酸素の軌道との重なりは族の下の方の金属ほど大きくなります。そのためより共有結合性が増大するため、dブロックでも重い金属のアクア錯体ほど強い酸になる傾向があります。
以下のアクア酸の酸性度が高い順に並べよ
$$\rm [Cd(H_2O)_6]^{2+},[Mg(H_2O)_6]^{2+},[Hg(H_2O)_6]^{2+}$$
解答
$$\rm [Hg(H_2O)_6]^{2+}> [Cd(H_2O)_6]^{2+}>[Mg(H_2O)_6]^{2+}$$
※基本的に重い金属のアクア酸ほど強い酸になる傾向があります。
つまり、イオンモデル(特に中心金属イオン半径が小さくなるほどアクア酸の酸性度が増加すること)はあくまでsブロックの元素にしか強くあてはめることができないということです。
参考)
シュライバー・アトキンス 無機化学 上 第6版 p147