キレート効果

一般的におなじぐらいの配位能を持つ単座配位子と多座配位子では、多座配位子のほうがより安定な錯体を形成する傾向があります。

例えばエチレンジアミン(二座配位子)を en と表記すると、
$$\rm Ni(NH_3)_6^{2+}(aq) + 3en(aq) → Ni(en)_3^{2+}(aq) + 6NH_3(aq) $$のような反応がおきることから分かるように、単座配位子のアンモニアより二座配位子エチレンジアミンのほうがより安定な錯体を形成します。
このように、単座配位子よりも多座配位子のほうが安定なキレート錯体を形成することをキレート効果と呼びます。

これは、系全体の分子自由度が大きくなる、つまり、エントロピーが増加するために起こります。

実際の配位子の比較してみます。
\begin{array}{cc}
\hline
   & \log β_n &ΔG[{\rm kJ \ mol^{-1}}]&ΔH[{\rm kJ \ mol^{-1}}]&ΔS[{\rm J \ mol^{-1} \ K^{-1}}]\\ \hline
 \rm [Ni(NH_3)_6]^{2+}(単座配位子)  &9.1(n=6) &-52&-100&-161 \\
   \rm [Ni(en)_3]^{2+}(二座配位子)& 18.4 (n=3)&-105&-117&-40\\
   \rm [Ni(penten)]^{2+}(6座配位子)& 19.1(n=1)&-109 &-94&+50\\ \hline
\end{array}
$$※\rm en=エチレンジアミン\\※\rm penten=(NH_2CH_2CH_2)_2NCH_2CH_2CH_2N(CH_2CH_2NH_2) $$
この表を見ると、錯体の生成定数$β_n$は単座配位子よりも他座配位子の方がずっと大きいことがわかります。(10桁程度大きい)

しかし、これら3つはニッケルー窒素と金属間で結合しているので、結合の強さは同じはずです。そして、実際、結合の強さの目安である結合エンタルピー$ΔH$は同程度です。

それにもかかわらず、生成定数が数桁も違うのはなぜでしょうか。

それは乱雑さの変化の指標であるエントロピー変化$ΔS$が異なるためです

これは、$ΔG=ΔH-TΔS$の式からわかるように、乱雑さの変化であるエントロピー変化$ΔS$が$ΔG$の低下に寄与していることがわかります。そして、$ΔG$は$\log β_n$に比例するため、このような生成定数の違いを生み出します。

エントロピー変化については、自由に動き回っている6座配位子を1分子だけ金属イオンに縛り付けるのと、自由に動き回っている単座配位子を6分子も金属に縛り付けるのとでは後者のほうが大変であるというイメージを持てばわかりやすいと思います。

このような、多座配位子が配位することによって系全体のエントロピーが増加するため、多座配位子のほうが配位しやすいことをキレート効果といいます。

参考)新版錯体化学 基礎と最新の展開 (KS化学専門書) p84

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