分子軌道法の種類

分子軌道法には経験的分子軌道法と半経験的分子軌道法と非経験的分子軌道法の3種類があります。

非経験的分子軌道

非経験則分子軌道法では、以下のHartree-Fock-Roothaanの式を「初めから(ab initio)」できるだけ近似しないで解く方法です。そのため、この非経験則的分子軌道法はab initio分子軌道法とも呼ばれます。
$$\newcommand\bl[1]{\boldsymbol{#1}} $$$$\b
\boldsymbol{FC}&=&\bl{SC_{\rm ε_{D}}} (Hartree-Fock-Roothaanの式)\\
\bl{C^{T}SC}&=&I(分子軌道間の直交基底化条件) \\
\e$$

この分子軌道法の長所は、
a)使用する基底関数及び計算方法に応じた精度が期待できるということ。
(例えば、HF(Hartree-Fock)レベルの計算で済ますか、あるいはCI(電子間相互作用)や、MP(moller Plesset)摂動法のレベルまで計算するかなど))
b)結合距離で、$±0.01Å、狭角±1~2°,二面角±5~10°$の精度で構造を求めることができる。
などがあります。

また、短所は、
a)構造はHFレベルの計算でほぼ満足できるが、エネルギー、電荷分布(双極子モーメント)などは、電子相関の計算(CIやMP摂動法)が必要となり、計算に時間が必要なこと

b)精度の良い計算は水素原子以外の原子が5個ぐらいでできている分子までに限られること
などがあります。

この計算を行う場合には、基底関数の選択、例えばSTO-3G、3-21G,6-31G、分極関数の追加(lone-pair電子がある場合)、diffuse関数の追加(電気陰性度の大きい原子やアニオンの場合)や、計算方法の選択(例えば、SD-CI,MP2,MP3,MP4など)に留意する必要があります。

参考文献)
平尾恒夫・田辺和俊 分子軌道法MOPACガイドブック3訂版 p13 海文堂出版 1993

半経験的分子軌道法

半経験的分子軌道では$\bl{S=I}$の近似と、各種パラメータを使って計算した積分値とを用いて、以下の2式を解く方法です。
$$\b
\bl{FC}&=&\bl{C_{ε_{D}}} \\
\bl{C^{T}C}&=&\bl{I} \\
\e $$
この方法の長所は,
a)大きな分子の計算ができる。
b)計算が早い
c)非経験的分子軌道と違い、電子相関の効果は用いるパラメータを通して自動的に取り込まれている。
などです。

短所は
計算結果のすべてはパラメータ次第であり、パラメータの決定時に考慮されていなかった分子群に属する分子を新たに計算したい場合には、正しい計算が得られるという保証がない
ことです。
ただし、それでも有用な計算結果が得られるので、計算科学では多用されています。
※参考文献)
平尾恒夫・田辺和俊 分子軌道法MOPACガイドブック3訂版 p14 海文堂出版 1993

以下に半経験的分子軌道法の例を2つ挙げます。

AM1

AM1(Austin Model 1)法はNMDO法の欠点を克服するために、NMDO法における殻間反発エネルギー表式に手を加えることにより作られた分子軌道法である。
AM1法での殻間反発エネルギー${E_{AB}}^{\rm core}$は
$$\b
{E_{AB}}^{\rm core}&=& Z_AZ_B(s^As^A|s^Bs^B)(1+\exp{(-α_AR_{AB})}+\exp(-α_BR_{AB}))\\
&&+\underline{\sum_iK_{Ai}\exp{[-L_{Ai}(R_{AB}-M_{Ai})^2] }}\\
&& +\underline{    \sum_jK_{Bj}\exp[-L_{Bj}(R_{AB}-M_{Bj})^2]    }\\
\e$$ と表される。$underline{   \ \ \ }$で示した誤差関数の形をしている部分がAM1法で新しく付け加えられた項で、$K_{Ai},L_{Ai},M_{Ai}(i=1~最大4まで)$は原子ごとに定めたパラメータである。${E_{AB}}^{\rm core}$以外のすべての表式はMNDO法と同一である。MNDO法の欠点はすべて殻間反発エネルギーの課題評価に起因すると考えられていたため、それを${E_{AB}}^{\rm core}$の調整により解決しようと試みた例である。
参考文献)
平尾恒夫・田辺和俊 分子軌道法MOPACガイドブック3訂版 p27 海文堂出版 1993

PM3法

PM3法とはMNDO-PM3(Modified Neglect of Diatomic Overlap ,Parametic Methot 3)の略であり、1989年にStewartが発表した計算法である。

MNDO法や、AM1法ではまず、$\rm C,  \ H, \ N, \ O$に対するパラメータを決めてから、他の原子種のパラメータを決めていったのに対し、PM3法では763個の分子を相手に、12個の原子$\rm C,  \ H, \ N, \ O, \ F,  \ Al, \ Si, \ P , \ S,  \ Cl, \ Br, \ I,$についてのパラメータを同時に決めたことと、その際にハイパーバレントな分子をも考慮したことが特徴的である。

結果的に従来の方法よりも、
a)構造、双極子モーメント、イオン化ポテンシャルの計算精度を落とさずに、生成熱の誤差を小さくすることができた
b)ハイパーバレントな原子を含む分子についても通常の分子と同程度の精度で計算することができるようになった
などの点において、改善がされている。

参考文献)
平尾恒夫・田辺和俊 分子軌道法MOPACガイドブック3訂版 p30 海文堂出版 1993

経験的分子軌道法

経験的分子軌道法に分類される分子軌道法は
単純ヒュッケル法 (1931)
拡張ヒュッケル法 (1963) 
の二つがあります。

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