いくつかの原子から構成される一般の分子について分子屈折を考えるときに、近似的にこれを各構成原子に固有な量、原子屈折の和として表すことができる、つまり加成性が成り立ちます。これは、原子が分子を形成するときに直接結合にあずかる電子は外殻の電子の一部であり、他の電子はほとんど結合形成の影響を受けないためです。
原子屈折の値(cc/mol)
\begin{array}{cc}
\hline
原子または基 &R_{\rm D} \\ \hline
\rm H & 1.028 \\
\rm C & 2.591 \\
\rm O(エーテル)&1.764 \\
\rm O(アセタール)&1.607 \\
\rm OH(アルコール)&2.591 \\
\rm F& 0.81 \\
\rm Cl& 5.844 \\
\rm Br& 8.741 \\
\rm I& 13.954 \\
\rm NH_2(脂肪族)&4.438 \\
\rm NH(脂肪族)&3.610 \\
\rm NH(芳香族)&4.678 \\
\rm N(脂肪族)&2.744 \\
\rm N(芳香族)&4.243 \\
\rm NO_2(ニトロ基)&6.713 \\
\rm S(硫化物)&7.921 \\
\rm SH(チオール)&8.757 \\
\rm CN(ニトリル)&5.459 \\
\rm CO_3& 7.696 \\
\rm NO_3& 9.030 \\
\rm SO_3&11.338 \\
\rm PO_4&10.769 \\
\rm SO_4&11.090 \\
\rm 3員環& 0.614 \\
\rm 4員環& 0.317 \\
\rm 5員環& -0.19\\
\rm 6員環& -0.15\\
\rm 二重結合& 1.575\\
\rm 三重結合& 1.977\\ \hline
\end{array}
$$引用)A.Vogel, J.Chem. Soc. (London), 1833(1948)
しかし、結合にあずかる電子は明らかに状態変化を起こしますので、厳密には加成性が成り立ちません。そこで、電子グループについての屈折を考えるとか、あるいは特定の結合についての結合屈折を設定するなどの工夫を行うことにより、分子屈折の加成性がより良く成り立たせることができます。
結合屈折とは、$\rm AX_n$で表される分子を考え、この分子の分子屈折の値を$n$で割った値のことです。これを$\rm A-X$結合についての結合屈折と定義します。
したがって、結合屈折はその結合にあずかる電子の動きやすさ、すなわち、分極の度合いを表すものとみることができる。特定の分子についてのその分子屈折を求めるには、分子に含まれるすべての結合についての結合屈折の値を表より、加算すればよいです。
以下に結合屈折の値を示します。
結合屈折の表(cc/mol)
\begin{array}{cc}
\hline
結合& R_{\rm D} \\ \hline
\rm C-H& 1.676 \\
\rm C-C&1.296 \\
\rm C-C(シクロプロパン)&1.50 \\
\rm C-C(シクロブタン)&1.38 \\
\rm C-C(シクロペンタン)&1.26 \\
\rm C-C(シクロヘキサン)&1.27 \\
\rm C-C(芳香族)&2.69 \\
\rm C=C&4.17 \\
\rm C≡C&5.87 \\
\rm C-F&1.55 \\
\rm C-Cl& 6.51 \\
\rm C-Br & 9.39 \\
\rm C-I & 14.61 \\
\rm C-O(エーテル) & 1.54 \\
\rm C-O(アセタル) &1.46 \\
\rm C=O &3.32 \\
\rm C=O(メチルケトン) &3.49 \\
\rm C-S & 4.61 \\
\rm C=S & 11.91 \\
\rm C-N& 1.57 \\
\rm C=N & 3.75 \\
\rm C≡N & 4.82 \\
\rm O-H(アルコール) &1.66 \\
\rm O-H(酸) &1.80 \\
\rm S-H &4.80 \\
\rm S-H &4.80\\
\rm S-S & 8.11 \\
\rm S-O & 4.94 \\
\rm N-H & 1.76 \\
\rm N-O & 2.43 \\
\rm N=O & 4.00 \\
\rm N=N &4.12 \\ \hline
\end{array}
引用)A.Vogel, W.Cresswell, G.Jeffery, I.Leicester, Chemstry and Indstry 358 (1950) ; J Chem. Soc(London),514 (1952)
このようにして得られた分子屈折の値は実験値と多くの場合十分に満足できる程度で一致します。
参考)神戸謙次郎 光と分子Ⅰ-主として物理的立場から見た-初版1刷 1967 共立出版株式会社 pp.37-50