$\newcommand\D{{\boldsymbol{D}}}\newcommand\E{{\boldsymbol{E}}}\newcommand\n{{\boldsymbol{n}}}\newcommand\P{{\boldsymbol{P}}}\newcommand\M{{\boldsymbol{M}}}\newcommand\F{{\boldsymbol{F}}}$
真空中におかれた蓄電器(condenser)の極板面積を$A$、極板間の距離を$d$、そして極板に与えられた電荷の密度をそれぞれ$+σ$、$-σ$とすれば、$d$が極板のディメンションに比べて小さい限り、正負の極板感に均一なそして極板に垂直な電場が作られる。いま、この電場の強さを$E$とすれば、$E$は
$$E=4πσ\tag{1}
で与えられる。ところが、このような状態にある蓄電器の両極版間を均一な誘電物質で満たすと、分極の結果、電場の強さが減少する。この電場の強さを$E’$とすると、
$$\f{E}{E’}=ε\tag{2}
で表される量、$ε$、が物質のぶん局状態を示すパラメータとなり、物質に固有な定数、すなわち、誘電率を意味する。
$E’$は$(1),(2)$式の関係より、
$$E=\f{E}{ε}=\f{4πσ}{ε}\tag{3}
また、蓄電器の容量$C$は、極板間のポテンシャルを$U$とすると、
$$C=\f{σA}{U}
で与えられるから、真空のときの容量を$C_0$、誘電体を満たしたときの容量を$C$とすると、
$$\f{C}{C_0}=ε\tag{4}
で誘電率を定義することもできる。$(4)$式から明らかなように、誘電率はディメンションのない量である。
$(3)$式より、誘電体が存在するときには、極板の電荷が見かけ上始めの$\f{1}{ε}$になったことになる。しかし、全殿下の量は不変のはずだから、このことは電荷が、
$$σ\s{1-\f{1}{ε}}=σ\s{\f{ε-1}{ε}}\tag{5}$$に相当する量だけ効果を失ったことを意味するわけで、分極によって誘電物質の表面に誘起された電荷が、電極の電荷と反対の符号を持つために、$(5)$に相当する電極の電荷を打ち消した状態となる結果である。このような意味において、$\f{σ}{ε}$を自由電荷、$\f{σ(ε-1)}{ε}$束縛電荷と呼ぶことがある。
さて、ここで分極の意味をさらに明瞭にするために、新たなベクトル量$\D$を次のように定義する。$\D$の大きさは
$$D=4πσ\tag{6}
で方向は極板に垂直であるものとする。このような$\D$は$(6)$式からわかるように、全電荷によって作られる電場の大きさを表す。そこで、誘電体を満たしたときの電場の大きさを改めて$\E$とおくと、
$$\D=ε\E\tag{7}
の関係が得られる。$\D$は電気変位あるいは電束密度とよばれ、一般的にはその垂直線分が表面電荷密度の$4π$倍に等しい。すなわち、
$$\D・\n=4πσ
ここで、$\n$は法線方向の単位ベクトルを表す。
また、$(5)$式で表される誘起電荷密度をベクトル$\P$で表わし
$$\P=\f{ε-1}{ε}σ
とすると、$(6)式と(7)式$を用いることで、
$$\D=\E=4π\P\tag{8}
が得られる。この$\P$が分極と言われるものでマクロな量とミクロな量を結びつける重量な量である。すなわち、電場によって誘電物質内に誘起された双極子全体の効果が分極として現れるのであるから、考えている、誘電物質全体として、双極子モーメントを$\M$とすれば、
$$\M=\P・A・d=\P・V
となり、分極$\P$は単位体積あたりのそう双極子モーメントにほかならない。$V=A・d$は誘電物質の容積である。そこで、$(8)$を書き換えて、
$$\E(ε-1)=4π\P\tag{☆}
あるいは、
$$(ε-1)=\f{4π\P}{\E}
とすると、マクロの量$ε$と、ミクロにつながる量$\P$との関係が一層明らかになるであろう。
誘電率は、第一近似としては、電場の強さに依存しない定義であるが、温度および電場の振動数によって変化する。
話を簡単にするために、いま、ある単原子分子が電場に置かれたとすると、この分子は分極されて電子雲の分布に歪みを生じ、負電荷の重心と正電荷の重心(原子核の位置にあたる)とが一致せず、いわゆる双極子モーメントを持つようになる。このモーメントの大きさを$\bar{μ}$で表すと、
$$\bar{μ}=α_eE\tag{9}
すなわち、分子には電場の強さに比例した双極子モーメントが誘起される。ここで、$α_e$は比例係数で分極率と呼ばれるが、上の関係から、明らかなように、単位の強さの電場によって、誘起される双極子モーメントの大きさを表すものである。単位体積中に含まれる分子の数を$N$個ことすると、分極$\P$は
$$\P=N・\bar{μ}=Nα_e\E\tag{★}
で表されることになることは明らかであろう。いま、原子核の電荷を$+Ze$電子雲の電荷$-Ze$とすると、電子雲は電場$\E$によって、
$$\F=\ZeE
のちからをうけ、その分布に歪みを生じる。この歪みを表すのに、近似的に次のように考える。電子雲分布の対称性(球対称)はそのまま保たれ、ただ、その中心が始めの位置(原子核の位置に一致)から$d$だけずれる。この状態で、電場による力と正負電荷の間のクーロン引力と釣り合うとすると、
$$\f{-(Ze)^2d^3}{r_0^3}\\d^2=-ZeE\tag{10}
これより、
$$E=\f{Zed}{r_0^3}
が得られる。ところが上式の分子$Z_ed$は電場によって、誘起された双極子モーメントにほかならないから、これを$\bar{μ}$とおくと、
$$\bar{r_0^3E}
となる。ただし、$(10)$で用いた$r_0$は電子雲の半径を意味する。$(9),(10)$。この場合、$$α_e=r_0^3
あることが、わかる。
すなわち、分極率は容積と等しいディメンションもつのである。$r_0$は普通$10^{-8}[{\rm cm}]$のオーダーであるから、$α_e$は、したがって、$10^{-24}[{\rm cm^{-3}}]$のオーダーになる。原子の半径を正確に定めることは無意味であるが、水素原子の場合、$r_0$として、$\rm Bohr$半径($α_0=0.53Å$)をとれば、分極率$α_e$は$α_e=\f{9a_0^3}{2}=0.667×10^{-24}[{\rm cm^3}]$が得られれている。
一般の原子の場合にも、上と同様に考えることができるが、電子の数が多くなればなるほど、分極率は多くなること予想される。また、同一原子内の電子でも、外殻にある原子のほうが核との結びつきが少ないために分極される度合いが大きく、したがって分極率に対する寄与も大きい。例えば、同数の電子を持つ中性原子と正のイオンおよび負のイオンの分極率を比較すると、正イオンの分極率が最も、負イオンそれが最も大きくなる。
前節では、便宜上問題を著しく、単純化して、1個の原子についての分極を考えたのであるが、一般には、希薄な気体を除いて、この理論をそのまま、適用するわけには行かない。誘電物質に加えられる電場は、分子間に働く相互作用のため、実際に構成分子に作用する電場とはことなるものである。したがって、分子の分極を考える場合に、外部電場$\E$をそのまま、用いることは許されない。われわれは、内部電場あるいは局部電場とよばれていた実際に分子に作用する電場の大きさを適当に設定しなければならない。誘電現象の理論が分子論的に意味を持つか否かには、この内部磁場の決定によるところが多い。
いま、着目する分子を中心として、半径$a$の球を考え、この球内では分子が規則的に配列しているが、それ以外の部分では、誘電物質を連続的な媒体とみなすことができるものと仮定する。すると、この球の中心に作用する電場$E_l$は3つの部分から成り立つことになる。第一は、蓄電器の極板にある自由電荷による電場$E_1$第二は、誘電体内に生じた一連の誘起双極子が、仮想的な球の内側にその末端を配列しているために生じる電場$E_2$、そして、第三は、球内にある個々の分子がその配置の状態とその形態に応じて与える電場$E_3$である。
$$E_l=E_1+E_2+E_3
ここで、$E_1$は明らかに外部から加えた電場に等しいから、これを$E$と書き換えればよい。また、$E_3$は実際の分子配列や分極率のデータを基にして、求めなければならない性質のものであるが、一般的に厳密な数学的取扱いをすることが難しいので、一つの特殊な場合として、分子が立方晶系の結晶を形成しているものと仮定し、それらの分子が中心$A$につくる電場を計算してみると、対称性のために互いに打ち消し合って、結局$E_3=0$となることが示される。すなわち、球内の分子を点双極子と仮定し、それらが双極子の軸を$z$軸方向に向けて配列していると、中心にある分子に対して、
$$E_3^z=\sum_i\f{3P_iz_i^2-P_ir_i^2}{r_i^5}\tag{11}
の電場を作用する。ここで、$P_i$は個々の分子の双極子モーメントを、$r_i$は中心分子と$i$番目の双極子との距離、また$z_i$は$i$番目双極子の$z$座標である。ところが、仮定により分子の配列$x,y,z$軸に対して対称であるから、
$$\sum(\f{z_i^2}{r_i^5})=\sum(\f{y_i^2}{r_i^5})=\sum(\f{x_i^2}{r_i^5})
となり、
$$\sum(\f{r_i^2}{r_i^5})=3\sum\s{\f{z_i^2}{r_i^5}}
したがって、$(11)$式は0となる。立方格子、体心立方格子、面心立方格子の結晶の場合、あるいは等方的な分子配列をとる相では、双極子の配列が互いに平行である限り、常に$E_3=0$とすることができる。
$E_2$については、次のように考えることができる。分極の方向が(誘起双極子の軸の方向)が$Z$方向であるとすると、半径$a$の球殻上の一点$B$における電荷密度は$\P・\n=P・\cos θ$であるから、この電荷によって中心$A$に作られる電場の$z$成分を球面全体にうてい計算する。まず図に示した球の環状の部分の電荷は、$2πa\sin θa \d θ・P\cos θ$で表されるから、これによって中心に作られる電場の$z$成分は、
$$\f{(2πa\sin θ ・a\d θP\cos θ)\cosθ}{a^2}\tag{12}
となる。よって、球の内面の全電荷によって、中心に作られる電場は$(12)$式$θ=0$から$π$にたって積分すれば求めることができる。すなわち、
$$\b
E_2&=&\int^π_0\f{1}{a^2}\s{2πa^2\P\sin θ\cos^2 θ}\d θ\\
&=& \f{4π}{3}\P\\
\e
なお、電場の$x$成分、$y$成分は、球対称ために互いに打ち消して0となるから考えなくてよい。
けっきょく、内部電場$E_l$として
$$E_l=E+\f{4π}{3}\P
が得られる。ここで$(☆)$をつかって、$\P$を書き換えると
$$\b
E_l&=&\E+\f{ε-1}{3}\E \\
&=&\f{ε+2}{3}\E \tag{13}\\
\e
となり、外部磁場$\E$と誘電率$ε$とによって、内部電場が表されることになる。$(13)$式で表される内部電場を、その提唱者にちなんでLorentzの電場と呼ぶ。
この$(★)$式を一般的に書き直して、
$$\P=\sum_iN_iα_iE_l
とし、内部電場として、Lorentzの電場を用いる
$$\P=\sum_iN_iα_iE_l
として、内